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2026.05.25

【海外HRトレンド】スキルベース採用が変える「育て方」その先に何を置くか

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
【海外HRトレンド】スキルベース採用が変える「育て方」その先に何を置くか
日本では「ジョブ型採用」という言葉が定着してきましたが、海外のHRカンファレンスや記事を読むと、ジョブ型という言葉はほとんど出てきません。LMSをはじめとする人材開発の文脈も含めて、いま世界を席巻しているのは「スキルベース」という言葉です。またか、と思うくらい至るところで登場します。今月はその「スキルベース」を正面から取り上げてみたいと思います。

採用基準を学歴から能力へ。職歴よりも、何ができるかを見る。スキルを可視化して、育成と配置に活かす。この方向性に異論を唱える人はほとんどいないでしょう。しかし、「なぜ今スキルなのか」と問われると、意外と答えに詰まる。私自身、しばらくその問いを持ち続けていました。

今月は、この「なぜ」から始めて、スキルベースという考え方が本来何を目指していたのかを、少し根本から問い直してみたいと思います。

1. なぜ、今スキルなのか

まずここから整理しておく必要があると思います。

AIが仕事の内容を急速に変えている時代に、「一度学べば長く使える」スキルというものが、急速に減っています。同時に、仕事に求められる能力の更新速度は上がり続けている。
この状況で何が起きているかというと、「一部の人だけが学び続ければいい」という時代が終わったということです。組織の中で成果を出し続けるために、全員が学び続けることが必要になった。これが、スキルベースという議論が急速に広がっている根本的な理由だと私は理解しています。

データもそれを裏付けています。世界経済フォーラム(WEF)は、2030年までに全世界の労働者100人のうち59人が、何らかの形での再訓練を必要とすると予測しています。また、マッキンゼーが2025年に実施した調査では、68%のリーダーが「新たなスキル需要の最大の要因は、新技術の採用と革新の速度だ」と回答しています。
問題は「何を学ぶか」ではなく「どう学び続けるか」。この問いに向き合うための枠組みとして、スキルベースという考え方が登場したのだと思います。

では、その枠組みは機能しているのでしょうか。

2. スキルを分解すれば、できるようになるのか

「スキルベース」という言葉を聞いたとき、多くの組織がまず着手するのは、スキルの細かな分解と定義です。コンピテンシーの一覧、スキルマップ、タクソノミー。仕事に必要な能力を細かく列挙し、それぞれのレベルを定義する。
これ自体は必要なことだと思います。「どの筋肉を鍛えるべきか」を知らずに筋トレをしても、効率は悪い。何をどの程度身につければいいかが見えれば、学習の方向性が定まる。

しかし、ここに一つの罠があります。
スキルを細かく分解して、それを全部身につけたとして、できるようになるかどうかは、別の話です。

スポーツで考えるとわかりやすい。筋力、柔軟性、持久力、反応速度、それぞれのトレーニングをどれだけ積んでも、実際の試合で記録が出るかどうかは、それらの統合にかかっています。先にあるのは「どの競技で、どんな成果を出すか」という目標であって、スキルの一覧ではない。

仕事も同じです。「どの業務パフォーマンスを実現するか」が先にあり、スキルの分解はその逆算です。しかも実際には、全スキルを保有していなくても、補完関係や強みの組み合わせによって成果が出ることは多い。

マッキンゼーの研究は、この問題を「転移の問題」と呼んでいます。従来型のトレーニングでは、数日以内に知識の70〜90%が失われる。組織にはコンテンツが揃っている。足りないのは、それを実際の能力に変換するシステムです。

スキルを「細かく分解してリストアップする」という横軸の議論だけでは、本質的な問いに答えられていない。もう一つの軸、スキルの「深さ」「高さ」の議論が、ほとんど抜け落ちているのではないかと感じています。

3.「保有」と「発揮」と「活用」は、まったく別のものだ

スキルには、段階があると私は考えています。

保有能力:知っている、説明できる。アセスメントで測定できる段階。
発揮能力 :求められたときに示せる。「できます」と手を挙げられる段階。
活用能力 :実際の仕事の文脈で使っている。成果に結びついている段階。
習慣化能力 :意識しなくても自然に出る。その人の「型」になっている段階。

現在のスキルベースの議論は、ほとんどが「保有」の段階を問題にしています。アセスメントで測定できるのも、基本的には保有レベルです。

しかし、Deloitteの2025年 Global Human Capital Trends報告書が示すように、マネージャーの66%が「最近の採用者は十分な準備ができていなかった」と感じており、最大の原因として挙げたのはスキルの不足ではなく「経験の不足」でした。

これをこの4段階で言い換えると、「保有はある程度できているが、活用まで至っていない」ということです。

では、どこで詰まるのか。私がもっとも重要だと考えているのは、「発揮」から「活用」への移行です。ここが、できる人とできない人の、最大の分岐点になっているように見受けられます。

この分岐点を、世界のHRはどう捉えているのか。今月読んだ4本の記事から考えてみます。

4. 今月、私が読んだ4本

「保有」で止まらず、「活用」まで至るために何が必要か。この問いを軸に、今月は4本を選びました。

Josh Bersin「The World of Corporate Training Lurches Toward Enablement」
🔗 https://joshbersin.com/2026/03/the-world-of-corporate-training-lurches-toward-enablement/
「スキルを持つ」から「スキルを仕事の中で使える」へのパラダイムシフトを論じた記事です。「エネイブルメント」という概念は、私が考える「活用能力」の話と重なります。採用だけでなく、育成全体の再設計を求めている点が刺さりました。

McKinsey「How European Organizations Can Treat Skills as a Strategic Priority」
🔗 https://www.mckinsey.com/capabilities/people-and-organizational-performance/our-insights/how-european-organizations-can-treat-skills-as-a-strategic-priority
「なぜ今スキルなのか」を考える上での補助線として読みました。リーダーと従業員の間で「どのスキルが重要か」の認識に大きなギャップがある、という指摘は、日本でも同じ構図が起きているのではないかと感じます。

Deloitte「Closing the Skills Gap: The Experience Gap Is Harder to Close」(HCT 2025)
🔗 https://www.deloitte.com/us/en/insights/topics/talent/human-capital-trends/2025/closing-the-experience-gap-through-talent-development.html
「スキルギャップ」より「経験ギャップ」が本当の問題だ、という視点に注目しました。ただ私は、「経験できるならしたい、でもできないから困っている」という現場の現実を思うと、この問いはさらに深く「誰が経験機会を創るのか」まで掘り下げる必要があると感じています。

SHRM「The Skills-First Movement: Redefining How Organizations Hire and Grow」
🔗 https://www.shrm.org/topics-tools/research/skills-first-movement-redefining-how-organizations-hire-grow
HRリーダーと従業員の間で「AIがどのスキルの重要性を高めるか」の認識にギャップがある、という指摘が印象的でした。スキルを測る以前に、「何のためのスキルか」という対話が組織の中で必要だと改めて感じます。

5.「勉強している人」と「使っている人」の決定的な差

これらの記事を読みながら、頭に浮かび続けていたのが、AIの使い方の話です。

AIを「勉強している人」と、「自分の日常をよくするために実際に使っている人」。この二者の差は、スキルの習熟度よりもはるかに大きい。後者は、うまくいかないことも含めて試行錯誤しています。冷蔵庫の写真からレシピを作るアプリを自分で作ってみる、といった小さな「わがままの実現」が、発揮から活用への移行を起こします。

機会は、意外と自分で作り出せるものです。ただ、その発想があるかどうかが、分かれ目になっているように感じています。

6. 横軸と縦軸(育成設計の本丸はどこにあるか)

スキルベースという考え方を人材育成の観点から整理すると、二つの軸の議論を同時に進める必要があると思います。

横軸:何を、どこまで分解するか

スキルの分解と定義は必要です。ただし「全スキルを保有すればできる」ではなく、「どの業務パフォーマンスを実現するために、どの能力の組み合わせが効くか」という問いから逆算する。補完関係も考慮しながら、優先順位をつける。分解は目的ではなく、設計のための手段です。

縦軸:保有→発揮→活用→習慣化をどう設計するか

スキルが「使えるもの」になるまでには段階があります。今のスキルベースの議論は「保有」で止まりすぎている。発揮から活用への移行、「実際の仕事の文脈で試して、振り返る」機会を、誰がどう設計するか。ここが育成の本丸です。

そして、この縦軸の核心にあるのが「自ら機会を創り出せるか」という問いです。組織が活用の場を用意できれば理想ですが、それだけでは足りない。自律的に経験機会を手繰り寄せ、リフレクションを通じて「試してみた」を「できるようになった」に変換できる人が、これからの時代に成長し続けられる人だと思っています。

スキルベースは否定しません。でもそれは出発点であって、答えではない。測定の先に何を置くか、そこに、本当の問いがあります。

7. おわりに

「スキルベース採用を導入しました」という言葉を聞くとき、私はいつも少し立ち止まります。
入口の精度を上げることには意味があります。でも「測れるようになった」ことと「使えるようになった」ことは、まったく別のことです。
スキルを分解して可視化する。それは、どの筋肉をどう鍛えるかを知ることに似ています。しかし試合で記録を出すのは、それらを統合し、実際に場数を踏んだ人です。

育て方を変えるとは、経験の質と機会を変えることではないでしょうか。そしてその経験を、待つのではなく自ら創り出せる人をどう育てるか、これが、スキルベースの時代に問われている、本当の「育て方」だと私は思っています。

この問いを、ぜひあなたの組織でも持ち帰ってみてください。

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参照記事:Josh Bersin(2026年3月)/ McKinsey(2026年4月)/ Deloitte HCT(2025年)/ SHRM(2026年2月)

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