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2026.06.01

【戦略】研修の「ゴール」とは何か—3つの骨子で設計を組み立てる

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
【戦略】研修の「ゴール」とは何か—3つの骨子で設計を組み立てる
人材開発の現場で、こんな会話を聞いたことはないでしょうか。

「今回の研修の狙いは、リーダーシップの強化です」
「研修のゴールは、部下育成ができるようになることです」
「学習目標は、コーチングの基本理論を理解することです」

3つの言葉は、それぞれ異なる人が、異なる場面で口にします。しかしよく見ると、指している中身がそれぞれ微妙にズレています。「強化」とは何を意味するのか。「できるようになる」とはどのレベルか。「理解する」だけで本当に十分なのか。

この記事では、研修を成り立たせる「3つの骨子」を整理します。「狙い」「ゴール」「学習目標」という言葉がなぜ混ざり合うのか、そしてそれぞれを正確に使い分けると研修設計は何が変わるのか、を順番に解いていきます。

1. 研修で「達成できること」と「最終的に目指すこと」を分ける

研修の「狙い」を問われたとき、担当者がよく口にするのは「売上向上」「離職防止」「経営人材の輩出」といった言葉です。どれも正しい方向性ですが、これらは研修が直接達成できることではありません。

学習科学の視点から整理すると、研修が直接動かせるのは学習者のマインド・知識・スキルの変化だけです。そこから先、行動変容が起き、KPIが改善し、ビジネス成果につながる——このチェーンの中で、研修が担えるのは最上流の一段だけです。

この図が示す通り、「人材開発をコストではなく投資として語る」ためには、研修が担う範囲(学習目標)と、その先の行動・成果を意図的に切り分けて考える必要があります。

言葉の整理をすると、こうなります。

言葉何を語るか
導入背景・狙い(WHY)なぜこの研修を実施するのか。ビジネスインパクトを言語化したもの
学習目標 = ゴール(WHAT)研修終了後、学習者がどんな状態になっているか
効果測定(EVALUATE)その状態になったことを、いつ・どう確認するか
学習活動(HOW)ゴールへ到達するための学習体験

「狙い」は研修の外にある最終目的地、「学習目標(ゴール)」は研修が責任を持てる到達点です。この2つを混同したまま研修を企画すると、「業績向上」が学習目標として書かれてしまい、誰もその達成を判断できない研修が生まれます。

この混同が起きやすいのは、研修を提案する会議の場面です。「今回はリーダーシップ強化を目標にしましょう」という言葉が飛び交う中、「では、研修後に受講者は現場でどんな行動をとっているはずですか?」という問いが出てくることはほとんどありません。ゴールが「強化」のまま確定されると、効果を測る基準も生まれず、研修は「実施した」という実績だけが残ります。人材開発への投資を経営に説明するとき、この積み重ねが担当者を苦しめます。

2. ギャップ分析の落とし穴——スキルではなく「行動」を起点にする

「あるべき姿と現状のギャップ」を分析して研修を設計する手法は、広く使われています。これ自体は正しいアプローチです。しかし、ギャップの見方によって、設計の質は大きく変わります。

よくある落とし穴は、ギャップを「スキルの不足」として捉えた瞬間に起きます。

この思考パターンで設計された研修は、「コーチング力を上げる」「プレゼン力を強化する」といった能力開発の話に終始しがちです。しかしここで問うべき本質的な問いは、「スキルが上がった結果として、現場でどんな行動が変わっていなければならないのか」です。

この順序で考えると、同じ「コーチング研修」であっても、学習目標はまったく変わります。

ギャップの見方学習目標の書き方
スキルのギャップ「コーチングの基本手法を理解している」
行動からの逆算「部下との月1回の1on1で、傾聴と質問を使って本人の内省を引き出せる」

後者の学習目標には、「何を」「どんな条件で」「どのレベルで」できるかが具体的に書かれています。この書き方ができた瞬間に、効果測定の方法も、必要な学習活動も、自然と見えてきます。

たとえば前者の目標では、「研修後にコーチングの理論を理解しているか」を確認するペーパーテストが効果測定の候補になります。一方、後者なら「3ヶ月後、部下との1on1が月1回以上実施されているか」「1on1後に部下の行動が変わっているか」がチェックポイントになります。学習目標の書き方が変わるだけで、測定の問いも、研修プログラムの設計も、まるごと変わります。目標を「行動の言葉」で書くことは、設計全体の起点を書き換えることです。

補足:「場面を特定しすぎる」ことへの懸念について

「1on1という場面に限定すると、それ以外では使えなくなるのでは?」という問いが出ることがあります。これはもっともな懸念です。ただし、行動の言葉で書くことと、場面を一つに絞ることは、別の話です。

「コーチングの基本手法を理解している」が問題なのは、場面が広いからではありません。「理解している」という言葉が観察も測定もできないからです。もし複数の場面で使える状態を目指すなら、「部下・後輩との対話場面において、傾聴・質問・承認のスキルを状況に応じて使い分けられる」と書けます。これは1on1に限定されていませんが、観察できる行動として書かれています。

さらに言えば、スキルを複数の場面に転移させたいなら、目標を曖昧に書くよりも、多様なシナリオでの演習を設計することが答えです。「1on1・部門横断会議・廊下での立ち話」など異なる場面で練習の機会を設ける設計こそが、汎用的に使える状態を生みます。

3. 3つの骨子:学習目標・効果測定・学習活動

インストラクショナルデザインの先駆者ロバート・F・メーガーは、研修設計を3つの問いに凝縮しました。

  1. どこへ行くのか? ——学習目標(WHAT)
  2. たどりついたかどうかを、どうやって知るのか? ——効果測定・卒業試験(EVALUATE)
  3. どうやってそこへ行くのか? ——学習活動(HOW)

この3つが、研修を成立させる骨子です。そして重要なのは、この順番で・一体として設計することです。

多くの研修設計が「HOW(学習活動)から始める」失敗をします。内容を作ってから、最後に効果測定を付け足す。結果として、測れない目標と、目標に紐づかない評価が並ぶ研修ができ上がります。

効果測定は、学習目標を設定した瞬間にペアで設計します。「この状態になったことを、どうやって確認するか」という問いへの答えが出せない学習目標は、目標として機能していません。

多くの研修で見られる失敗は、この順序が逆になることです。「どんな良い研修体験を届けるか」という発想でプログラムが先に組まれ、最後に「とりあえずアンケートでも入れておこう」と評価が付け足される。メーガーが問い続けたのはこの逆順です。目標を先に決め、測定方法を先に設計し、そのうえで「ではどんな学習活動が必要か」を考える。この順番が、研修を「実施した記録」ではなく「成果の設計」に変えます。

4. ゴールのレベルが上がるほど、研修は長くなる

学習目標には「どこまで到達するか」というレベルがあります。同じテーマでも、どのレベルを目標とするかで、必要な研修の期間・形式・フォローアップは大きく変わります。

「わかる」ゴールは、半日の集合研修で到達できます。しかし「現場で成果に結びつける」ゴールには、事前学習・集合研修・現場実践・フォローアップというサイクルが必要であり、数週間から数ヶ月の設計が前提になります。

ゴールレベルを「実践・成果」に設定しながら、予算と時間の制約から「半日研修1回」という設計を選ぶことは、構造的に矛盾しています。この矛盾を関係者に見えるようにするのも、人材開発担当者の仕事です。

「この研修で目指すゴールは、どのレベルですか?」

この一言を、企画の最初に経営や事業部と揃えることで、研修の期間・形式・投資額の根拠が、論理的に説明できるようになります。

逆に、この確認がないまま設計を進めると、「わかる」ゴールの研修に半年間の継続プログラムの予算を投じたり、「実践・成果」を求める声に単発の1日研修で応えようとしたりする矛盾が生まれます。ゴールレベルの合意は、研修設計の話であると同時に、予算交渉の根拠でもあります。「なぜこの期間・この規模が必要なのか」をレベルの表を使って説明できる担当者と、感覚で話す担当者では、経営や事業部からの信頼の厚さが変わります。

5. 明日からの一歩

3つのアクションを提案します。

① 手元の研修企画書の「学習目標」を、行動の言葉に書き換える
「理解する」「身につける」「高める」が使われていたら、「何を、どんな条件で、どのレベルで、できるか」の3要素で書き直す。

② 効果測定を、学習目標と同時に設計する
目標を書いたら、すぐ隣に「これを確認する方法と基準」を書く習慣をつける。

③ ギャップ分析をスキルではなく「行動」から始める
「何ができていないのか」の前に、「研修後に現場でどんな行動が変わっていてほしいのか」を先に決める。

視座の転換

この記事で扱ったのは、研修の「骨子を揃える」段階の話です。骨子が揃ったあとに、「どう学習体験を設計するか」——プログラム・コース・コンテンツの3層に落とし込む工程が続きます。それは次の記事で整理します。

ここで、ひとつ問いを置きます。

あなたの研修の「学習目標」は、スキルの向上で終わっていますか。
それとも、「研修後に現場でどんな行動が変わるか」まで踏み込んでいますか。

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