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2026.09.28

経営理念は、共感を四つに分けて書くと自分ごとになる

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
経営理念は、共感を四つに分けて書くと自分ごとになる
「理念は言葉としては浸透しています。でも行動につながっている気がしない時があるんです」。 よくこのような理念浸透の相談をいただくことがあります。そして、この言葉を言うのは、説明会も社内報もカードも、一通りやり切った担当者であることが多いです。

浸透度調査のスコアは上がっている。唱和もできる。それなのに、この半年で理念を根拠に決めた判断を一つ挙げてくださいと聞くと、言葉に詰まってしまう。

原因は、伝える回数が足りないことではありません。伝えたあとに社員が何をするかを、誰も決めていないことです。

この記事では、理念を全員が言えるのになぜ判断に出てこないのか、理念が浸透するまでの四段階のうちどこが空いているのか、そこで社員に何をしてもらうのかを、順番に解いていきます。

1. 全員が言えるのに、理念で決めた判断は一つもない

ご相談をいただく会社では、打てる手はほとんど打っています。期初の全社集会で社長が理念を語り、eラーニングを配信し、名刺サイズのカードを配り、社内報で毎月、理念を体現した社員を紹介する。社内の意識調査で「理念を知っている」と答えた人は、九割を超えています。

それでも、期末に予算をどこへ振るかを決めるときも、中途採用の最終面接で採るか採らないかを決めるときも、理念を理由に挙げる人はいません。どちらも、理念がいちばん効くはずの場面です。

唱和できる社員に「なぜそれが大事だと思いますか」と聞くと、言葉が止まります。覚えてはいるが、なぜ大事なのかという理由が本人の中にない。言える状態にする施策はあるのに、使える状態にする施策が一つもありません。

では、経営層はどうでしょうか。マッキンゼーが2021年に米国の労働者1,021名に行った調査では、「日々の仕事で自分のパーパスを生きているか」という問いに、経営層と上級管理職の85%がイエスと答えました。現場の管理職と従業員では15%です。同じ会社の同じ理念で、五倍以上の差がつきます。

この差は、熱意の差ではありません。つくった人と、受け取った人の差です。

2. 対話は大事と言うが、何を話すかが書かれていない

理念浸透には対話が要る。自分ごと化が要る。この二つに反対する人はいません。弊社も同じ立場です。問題は、その先にあります。

対話の場を設けましょう、と書いてある資料は山ほどありますが、その場で何を話すのかを書いたものがほとんどありません。 だから現場の対話会は、理念の感想を言い合う時間になります。「いい言葉だと思います」「うちの部署だと難しいですね」。一時間で終わり、翌週には何も残りません。

理念が浸透するまでには、四つの段階があります。①理解(Understanding)は、理念の言葉と背景を知ることです。②解釈(Interpretation)は、理念を自分の仕事や経験に引きつけて、自分にとってどういう意味かを考えることです。③実践(Commitment)は、理念に沿って実際に判断することです。④再言語化(Re-articulation)は、やってみて感じたことをもとに、理念の意味を自分の言葉で言い直すことです。

施策を並べると、偏りがはっきりします。①には予算がつきます。③も形の上では毎日起きています。判断する場面は、仕事の中にいくらでもあるからです。何もやっていないのは、②と④の二つだけです。

外国語を覚えるときと同じ構造です。単語帳を一冊覚えれば、単語は言えるようになります。けれど、自分の言いたいことをその単語で組み立てる作文をしなければ、話せるようにはなりません。そして一度話してみて、通じなかったところを言い直す。この二つを飛ばして単語帳を二冊三冊と増やしても、口からは何も出てきません。説明会を増やしても理念が使われないのは、これと同じです。

一言で言うと、理念浸透でやっていないのは、伝えることではなく、受け取った社員がやることです。

空いている二つは、どちらも振り返る作業です。熊平美香氏は『リフレクション』(2021年)で、リフレクションを自己を客観的かつ批判的に振り返る行為と定義しました。自分の考えや判断を、他人のものを見るように見直すということです。②は理念を自分の過去に照らして振り返ること、④は理念を使った自分の判断を振り返ること。経営理念の浸透こそリフレクションが要るというのは、この意味です。

3. 共感を、意見・経験・感情・価値観の四つに分けて書く

では、②の解釈では具体的に何をするのでしょうか。

使う道具は認知の4点セットです。人の意見は、その人の経験と、それに紐づく感情と、さらに奥にある価値観からできています。会話に出てくるのは、いちばん上の意見だけです。四つに分けて書き出すと、普段は本人にも見えていない下の三段が表に出てきます。

理念にこれを使うときは、聞き方を一つだけ守ります。理念全体に賛成できますか、とは聞きません。 全体への賛否を求められると、人は身構えます。賛成と言えば嘘になるかもしれないし、反対と言えば角が立つ。当たり障りのない答えしか返ってきません。

聞くのは、理念のどこか一点に、自分の経験が引っかかるかです。一点で構いません。これを共感ポイントと呼びます。問いは四つです。

  • 意見:この理念のどこに共感しますか。一行で書いてください。
  • 経験:そう思うのは、どんな経験があるからですか。
  • 感情:その経験には、どんな感情が紐づいていましたか。
  • 価値観:そこから見えてくる、あなたが大切にしている価値観は何ですか。

理念が「お客様の期待を超える」だとして、営業部のある社員の記入例です。

 記入例
意見「期待を超える」の、“超える”という言葉に共感する
経験前職で、仕様書どおりに納品して評価された。半年後に「本当はこうしたかった」と言われた。言われたとおりに作っただけで、何も聞いていなかった
感情悔しい。恥ずかしい
価値観頼まれたことの、一つ手前を聞く

四つのうち、いちばん飛ばされるのは感情です。仕事の場で感情を書くことに慣れていないので、経験から価値観へいきなり飛ぼうとします。しかし感情を飛ばすと、価値観が一般論になります。「顧客第一」「誠実」「挑戦」——どこの誰が書いても同じ言葉が並びます。悔しかった、恥ずかしかったと書いたあとでないと、その人にしか書けない価値観は出てきません。

理念の側にも、同じ四つがあります。グーグルの創業者二人が、当時はお金にならなかった検索エンジンの事業を始めたのは、検索結果の順位が広告料で決まる仕組みを見ていたからです(経験)。科学者の家庭に育った二人には、それが許せなかった(感情)。そこから、情報へのアクセスは民主的であるべきだという価値観が出てきます。誰でも同じように、必要な情報にたどり着けるべきだということです。どの会社の理念も、誰かの経験と感情から出てきた結論です。 配られているのは、その一行だけです。

4. 持ち寄ると、同じ理念を違う経験が支えていたと分かる

では、書いたものをどうするのでしょうか。手元に置いたままでは、本人の納得で終わります。

チームの中で回します。朝会でも、1on1でも、社内のグループウェアでも構いません。条件は二つです。一つは、全員が互いのものを読める状態にすることです。もう一つは、書いたものを人事評価には使わないと先に伝えることです。評価に使われると分かった瞬間に、全員が模範解答を書き始めます。

読むと、同じ一行に共感していても背景がまるで違うと分かります。営業のメンバーは納品の失敗から「期待を超える」に来ています。経理のメンバーは、請求書の誤りを先方に指摘される前に自分で見つけた経験から来ているかもしれません。同じ理念を、全員が違う経験から支えている。 ここまで来ると、理念の話をするときの言葉が変わります。「うちの理念は」ではなく、「あなたはあの経験から言っているんですね」になります。

書かせないとどうなるかは、ピーター・センゲが『学習する組織』で書いています。自分のビジョンを持たない人は、他人のビジョンに乗るしかない。そこで生まれるのはコミットメント(自分で決めて引き受けること)ではなく追従、つまり言われたとおりにやることです。理念を配るだけで終わると、全社員が人のビジョンに乗ったままになります。

共感ポイントが一つも書けない人もいます。一度目で書けないのは珍しくありません。書き慣れていないだけのことが多いので、記入例を見せて、もう一度促してください。それでも一点も引っかからないなら、これを本人の不真面目さとして扱ってはいけません。その事実は、会社と本人が、お互いに相手を選び間違えていることを示しています。その人がこの会社にいる理由を、確かめ直したほうがいいということです。

5. 来月の5分で始めて、三か月後にもう一度書く

来月の全社集会か理念研修の最後に、5分だけもらってください。参加者に、さきほどの四つを一行ずつ書いてもらいます。四つとも埋めるのが条件です。感情の欄を飛ばさないでください。書いたものは、その週のうちにチームの中で回します。

ここまでが②の解釈です。④の再言語化も、やることは同じです。三か月後に、同じ人に同じ四つをもう一度書いてもらいます。

一度目と違うのは、その三か月のあいだに、理念を使って判断した経験が入っていることです。先ほどの営業社員が、一度目に「頼まれたことの一つ手前を聞く」と書いたとします。三か月後には、聞きすぎて要件が膨らみ、納期を落とした経験が入っているかもしれません。すると価値観の欄が、「一つ手前を聞く」から「一つ手前を聞いたうえで、どこで線を引くかは自分で決める」に変わります。理念の意味が、本人の中で更新されます。

この5分で、三つのことが変わります。一つ目は、成果の測り方です。意識調査で理念を知っていると答えた人の割合ではなく、理念と自分の経験を結べた人の割合で見られるようになります。二つ目は、対話の場です。何を話すかが決まるので、感想を言い合う一時間がなくなります。三つ目は、理念そのものの扱いです。変えるべきかどうかを、社員が書いたもので判断できます。

浸透とは、全員が同じ言葉を言えることではありません。全員が違う経験から、同じ方向を語れることです。

視座の転換

理念浸透が伝え方の問題として扱われてきたあいだ、担当者の仕事は、資料をつくり、機会を増やし、届いた率を測ることでした。四つに分けて書かせる方式に変えると、仕事の中身が変わります。伝える人から、社員が自分と会社のつながりを自分で見つけられるようにする人に変わります。

そのために社員の側に要るのは、理念の知識ではありません。自分の経験と会社の言葉のあいだにつながりを、自分で見つける力です。一部の幹部候補だけでなく、全社員が身につけるものです。

——あなたの会社の理念のどこか一点に、あなた自身の経験が引っかかっているでしょうか。それとも、覚えているだけでしょうか。

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