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2026.07.06

【戦略】「研修を作れる人」は、どう育つのか—学びをデザインする力を育てる3つのステップ

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
【戦略】「研修を作れる人」は、どう育つのか—学びをデザインする力を育てる3つのステップ
研修企画に関わる人が、最初に任される仕事は何でしょうか。

多くの場合、それは「イベント運営」です。日程の調整、会場の手配、事前課題の回収、受講案内の送付。段取りを滞りなく進める、プロジェクトマネジメントに近い仕事です。これ自体は欠かせないスキルです。けれど、研修を“企画する”こととは、別の次元の話です。大手企業では、運営と企画が組織的に分かれていることも少なくありません。

そして多くの担当者が、運営はこなせるのに、企画は我流のまま——という宙ぶらりんを抱えています。

この記事では、「学びをデザインできる人」は、どんな道筋で育つのかを扱います。それは一部の人の才能なのか、それとも経験で育てられる専門性なのか。問いは、ここから始まります。

1. 人材開発の「手順書」は、なぜ書かれていないのか

営業や生産の現場には、「次にどう進めるか」の手順があります。商談のプロセス、製造の工程。標準化され、言語化された道筋があるからこそ、新人も先輩の背中をたどって育っていけます。

人材開発にも、本当は手順があります。研修をどう設計するか——インストラクショナルデザイン(学習を意図して設計する方法論)をはじめ、世界には体系化された「型」が、確かに存在します。手順が「ない」わけではないのです。多くの会社が、それを自社の手順書として言語化していない、あるいは持とうとしていない。本当の課題は、ここにあります。

その結果、研修をどう企画し、何を根拠に設計するかは、「できる人の頭の中」にとどまります。業務は属人化し、その人が異動した途端、知恵ごと失われ、後進が育ちにくくなります。

たとえば、前任者が作った研修を引き継いだとき。資料はあっても、「なぜこの内容なのか」「何を変えるための研修だったのか」が、どこにも書かれていない。仕方なく去年と同じものを実施する——そんな場面に、心当たりはないでしょうか。本来あったはずの設計の意図が、言語化されないまま、作り手とともに消えていくのです。

この「言語化されていなさ」は、現場で二つの極端な形をとります。一方では、人材開発に詳しい人が担当すると、内容がアカデミックに寄りすぎる。他方では、勢いのある人が話を進めると、企画の中身に踏み込めないまま「とりあえず実施」へ流れる。学びが、事業の言葉でも、設計の言葉でも語られないまま終わってしまう。

だからこそ、「型を座学で教えれば設計者が育つ」という発想も、半分しか正しくありません。型は、すでに世の中にあります。問題は、それを自分たちの言葉で言語化し、経験を通して使えるようにすることです。育てるべきは、研修の知識ではなく、学びをデザインする経験です。

2. すべては「原体験」から始まる

その経験の出発点に、ぜひ置きたいものがあります。担当者自身が、「学んで、変わった」という原体験を持っていることです。

学びの力を、自分の身体で知らない人に、人の学びを本気で設計することはできません。「研修なんて、やっても変わらない」と心のどこかで思っている人がつくる研修は、やはり、変わらない研修になります。逆に、一度の学びで世界の見え方が変わった経験のある人は、その手応えを設計に込めようとします。

理想は、本人に圧倒的な学びの場を経験させることです。それが難しいときに有効なのが、捉え方が一変する「真実の瞬間」に同席させることです。優れた研修の現場、顧客の本音がこぼれる場、ベテランの一言で受講者の表情が変わる瞬間——そこに立ち会った記憶が、「学びは、人を変えられる」という確信を残します。

この確信が、次に挙げる3つのステップを回し続ける、原動力になります。

3. 設計力が育つ3つのステップ

原体験で火がついたら、設計力は次の3つのステップを回すことで育っていきます。そしてこのステップは、回すほどに組織へ知恵が貯まるよう組み立てられています。

ステップ① 事業と学習の「接続点」を探す

最初に確かめるのは、「なぜ、人を育てることが業績につながるのか」です。何が効いていて、何が効いていないのか。事業と学習は、どこで結びつくのか。

これは机の上では分かりません。現場へ行くことです。アンケートのような表層のデータで判断せず、受講者や現場の人に、5人ほど、根掘り葉掘り聞く。それだけで、本当に必要な変化の多くは見えてきます。

アンケートでは「説明が分かりやすかった」という回答が並んでいても、現場で深く聞くと、「内容は分かったが、自分の業務でいつ使うのか結びつかなかった」という本音が出てくる。問題は教え方ではなく、現場とのつなぎ方だった——そうした発見は、数字の集計からは決して出てきません。事業の中身を深く知らなければ、何を研修で補うべきかも判断できません。設計は、現場を聴くことから始まります。

ステップ② 型を、チーム共通のフォーマットで学ぶ

接続点が見えたら、それを形にする「型(お作法)」を学びます。研修の骨子をどう組むか——インストラクショナルデザイン(学習を意図して設計する方法論)をはじめ、世の中には体系化された型があり、書籍で体系的に学べます。

ここで一歩進めたいのは、型を個人の我流ではなく、チーム共通のフォーマットで持つことです。研修企画の「要件定義書」をそろえる、と言い換えてもいいでしょう。なぜこの研修をやるのか(背景)、終了後にどんな状態を目指すのか(目標)、それをどう測るのか(評価)、どんな体験で到達させるのか(活動)——この項目がそろった一枚の様式です。

様式が共通であることの効果は、思いのほか大きいものです。誰が書いても抜け落ちが減り、品質が人に依存しなくなる。レビューも「様式のどこが弱いか」で議論でき、指導が再現可能になります。必要なときは、その定義書をそのままベンダーに渡すこともできる。外資系企業の強みの一つは、まさにこの要件定義を言語化する文化にあります。共通フォーマットこそが、第1節で見た“言語化されていない知恵”を、組織のものに変える仕組みです。

ステップ③ 実践事例を蓄積し、ブラッシュアップする

そして、やって終わりにしないことです。企画と、その結果を「事例」として残す。何を狙い、どう設計し、現場で何が起きたか。それを蓄積し、次の企画へ活かす。研修企画にも、PDCA(計画・実行・評価・改善のサイクル)が要ります。

たとえば、「現場で使われなかった」という失敗も、なぜ使われなかったのかまで残せば、次の設計者は同じ轍を踏みません。成功も失敗も、一行の事例になって初めて、次の人の出発点になります。

この③があるから、①の精度が次に上がります。回すほど、個人の勘が組織の知恵へと変わり、人も組織も賢くなっていく。言語化されてこなかった知恵が、自分たちの手順書として、ようやく形になり始めます。

4. 目指すのは「学びの生態系をプロデュースする仲間」

この3つを回せる担当者は、外部のベンダーよりも強い存在になります。社内の事業に誰よりも詳しく、現場の本音を知り、それを学びの設計につなげられるからです。外部の専門家がどれほど優れていても、自社の事業の機微と現場の手触りまでは持ち込めません。

ただ、ここで目指す姿を「社内のコンサルタント」と呼ぶのは、少し違うと考えています。コンサルタントは、どこかで当事者ではありません。外から助言し、提案を置いて去る立場です。人材開発が向かうのは、その逆です。事業の当事者として現場に入り込み、同じ目的に向かって伴走する——本当の意味での「仲間」になることです。それは、現場の力を引き出す「イネーブルメント(成果創出の支援)のパートナー」と言い換えてもいい。人材開発は間接部門と見なされがちですが、本来は、現場を動かすエンジンになれる存在です。

そして、見える景色も変わります。人の成長の多くは、研修の外で起きています。経験から7割、人との関わりから2割、研修からはせいぜい1割——70:20:10と呼ばれる経験則です。

ここで大切なのは、その「1割」を軽んじないことです。研修は、それ自体で人を変えるものではなく、変化の“入り口”になり得るもの。研修で受け取った火種を、上司や周囲との対話(2割)で深め、現場で実際に使ってみる経験(7割)を通して、はじめて「知恵」へと変えていく。設計力が育つと、仕事は「研修という1割」を作ることから、それを残りの9割へつなげる仕掛けをつくることへ広がっていきます。何を研修で点火し、それを現場でどう燃やし続けるか。研修“以外”の領域こそが、主戦場になっていきます。

その役割を、私たちは「学びの生態系(ラーニング・エコシステム)をプロデュースする人」と呼んでいます。研修を作れることは、その出発点にすぎません。

そして、もしあなたが人を育てる立場にいるなら、この3つのステップを、部下に意図して経験させることが、そのまま育成になります。型の座学を1日受けさせることではなく、現場に行かせ、共通のフォーマットで設計させ、結果を事例に残させる。その経験の連なりが、研修を作れる人を——やがて、学びの生態系をプロデュースできる人を——育てていきます。

明日からの一歩

① 次の研修で、担当者を「現場5人ヒアリング」に行かせる
アンケートを配る前に、5人に深く聞く。接続点は、現場にあります。

② 研修企画の「要件定義フォーマット」を、チームで1枚そろえる
我流の企画書を、共通の様式へ。属人化を止める第一歩です。

③ 終わった研修を、「事例」として1本残す
狙い・設計・結果を書き残す。やりっぱなしを、知恵に変えます。

視座の転換

研修は、実施すれば消えていきます。けれど、設計できる人が一人育てば、その人はやがて研修の枠を越え、現場の経験や学び合いまで含めた「学びの生態系」をデザインし始めます。

ここで、ひとつ問いを置きます。

あなたの組織は、研修を量産していますか。
それとも、学びの生態系をプロデュースできる“仲間”を、育てていますか。

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