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2026.05.04

【海外HRトレンド】AIの時代に、新人はどう「育てられる」べきか?

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
【海外HRトレンド】AIの時代に、新人はどう「育てられる」べきか?
毎年この季節になると、新しいメンバーを迎えた組織からさまざまな声が届きます。「今年の新人は飲み込みが早い」「リモートだと育成が難しい」「何をどこまで教えればいいのかわからない」。

こうした声に共通しているのは、問いの立て方です。多くの場合、「育て方」を変えれば解決する、という前提に立っている。しかし最近、私はこの前提自体を少し疑ってみる必要があるのではないかと感じています。

「育て方」以前に、「育てるとはどういうことか」という定義そのものが、静かに、しかし確実に変わりはじめているのではないか -と。
1. 手続きはAIへ。では、人間は何を担うのか

今月、私はオンボーディングと人材育成に関する海外の記事をいくつか読みました。その中で見えてきたことを、少し整理してみたいと思います。

まず数字から。オンボーディングに費やされる時間のうち最大40%は、書類処理・アカウント設定・FAQ対応といった繰り返し作業だという試算があります。Gartnerは2026年末までに、エンタープライズアプリケーションの40%がAIエージェントを活用するようになると予測していて、世界の先進企業ではすでにこの領域の自動化が本格化しています。大手保険会社・航空会社・製薬会社などで、入社から初期研修までのプロセス全体をAIが担う実証が始まっている。日本ではまだ事例は限られていますが、方向性としては明確です。
ただ、私がより興味深いと思ったのは、こうした効率化の議論と並行して、まったく異なる問いが世界のHRコミュニティで浮上していることでした。

「AIが手続きを担った先で、新人に何が残るのか」

複数の研究が繰り返し示しているのは、新入社員の成功を最も強く予測するのは、研修の完成度でも知識量でもなく、「ここに居ていいのだ」という帰属意識だ、ということです(Talya Bauer)。そしてこの帰属意識は、AIが自動化できる領域には入ってこない。

もう一つ、注目したい変化があります。「チェックリストの完了からスキルの実証へ」という評価軸のシフトです。動画を見た、テストを受けた、規程を読んだ -これらは「学んだかもしれない」ことを示すだけで、「できるようになった」ことは示しません。先進的な組織はここを変えようとしていて、進捗の基準を「何をこなしたか」から「何が実際にできるか」へと移そうとしています。
これはオンボーディングの方法論の話というより、「育てる」という行為の定義の話だと思います。
さらに言えば、「全員が同時に、同じ内容を学ぶ必要はない」という発想の転換も起きています。習得スピードは人によって異なる。AIが個別最適化されたコンテンツを届けられる時代に、一斉研修の必然性は薄れてきた。そして一斉でなくていいなら、職場への配属を早め、現場で「必要性を感じたタイミング」に学習を届けるという設計が可能になってくる。これはBlended Learningの考え方とも重なります。

もちろん現実はそう単純ではなく、配属を早めると現場が「もう少し育ててから来てほしかった」と感じるという摩擦は確かに起きます。でもこの摩擦は、本来ずっと議論されるべきだった「育成責任を現場と人事でどう分担するか」という問いを、表面化させるきっかけにもなるのではないでしょうか。

この問いを、今月読んだ4本の記事はそれぞれ違う角度から照らし出していました。

2. 今月、私が読んだ4本

「効率化できるものを効率化した先に、何を置くか」。この問いを軸に、今月は4本を選びました。
Josh Bersin「The Great Reinvention of Human Resources Has Begun」
🔗 https://joshbersin.com/2026/01/the-great-reinvention-of-human-resources-has-begun/
「HR職務の30〜40%が自動化できる」と示したこの記事で私が気になったのは、数字よりもその先の問いです。自動化によって生まれた余白を、HRは何で満たすのか。コスト削減の話として読むか、役割再定義の話として読むかで、受け取り方がまったく変わります。

Phenom「15 Onboarding Trends for 2026」
🔗 https://www.phenom.com/blog/onboarding-trends-ai-skills
15のトレンドが丁寧に整理されていて、オンボーディングを診断する際の補助線として使えます。特に「スキルベースへの転換」と「90日ジャーニーとしての設計」は、日本でも今すぐ問い直せる論点だと思いました。

Appical「10 Onboarding Trends Every HR Pro Should Know in 2026」
🔗 https://www.appical.com/resources/blog/what-to-expect-in-hr-and-onboarding-for-2026
「帰属意識が成功の最強の予測因子になった」という一文から始まるこの記事は、技術の話より人間の話に重心があって、読後感が他の記事と少し違います。「意図的に設計しなければ、つながりは生まれない」という主張は、シンプルだけど重い。

AIHR「11 HR Trends for 2026: Shaping What’s Next」
🔗https://www.aihr.com/blog/hr-trends/
「テクノロジーが進化するほど、人間的スキルがHRの価値を定義する」という逆説を論じた記事です。傾聴・コーチング・倫理的判断。これらへの投資が、AIツールの導入と同等かそれ以上に重要だという視点は、日本のHR部門が「デジタル化」と「人間化」を同時に進める際のヒントになると思いました。

3. 「効率化した先に、何を置くか」3つの論点

これらの記事を読みながら、一つのことが気になり続けていました。
世界のオンボーディングの議論は、「効率化できるものを効率化した先に、何を置くか」という問いに収束してきているように見えます。手続きはAIへ。では人間は何を担うのか。
そこで浮かび上がるのが「帰属意識の設計」という論点です。新人が「ここに居ていいのだ」と感じられるかどうかは、オリエンテーションの質よりも、入社前の関わり方や、入社後のマネージャーの振る舞いによって決まることが多い。これはシステムが代わりにやってくれるものではなく、意図的に設計しなければ生まれないものです。

もう一つ、「卒業基準を先に設計する」という発想が、私にはとても大切に思えます。「何ができるようになったら戦力化と言えるのか」。この問いに答えを持たないまま研修を設計することは、目的地を決めずに旅に出るようなものです。ゴールから逆算する。これは研修設計の基本原則ですが、オンボーディングではなぜかあまり実践されていない。

そしてもう一点。仕事に慣れてきた頃に起きる変化についても、触れておきたいと思います。毎日忙しく業務をこなしている。しかしその忙しさの中に、成長はあるか、というよりシビアな問いです。慣れとは、ある意味で学習の終わりを意味することがあります。同じ業務を繰り返すことで安定は生まれますが、能力が横ばいになっていることに気づきにくい。このタイミングで意図的にドライブをかける設計が、人材育成では往々にして抜け落ちているように感じます。

4. 4つのフェーズで、オンボーディングを問い直す

これらの問いを考えていくうちに、オンボーディングを4つのフェーズで捉え直すと見通しがよくなると感じるようになりました。

Pre-onboarding Onboarding Re-onboarding Ever-onboarding

Pre-onboarding:帰属意識は、入社前から始まっている
内定承諾から入社日までの期間は、育成の視野に入っていないことが多いですが、実はここが最も重要かもしれません。この期間の「沈黙」が、新入社員の不安と迷いを育ててしまう。Pre-onboardingの目的は情報提供ではなく、「あなたはすでにこのチームの一員だ」というシグナルを届けることではないでしょうか。ここが機能することで、職場配属を早め、現場で「必要性を感じてから学ぶ」という設計が成立してきます。

Onboarding:卒業基準から逆算する、90日のジャーニー
オンボーディングはイベントではなく、チェックポイントをクリアしていく90日間のジャーニーとして設計するべきだと思っています。そしてその出発点は、「何ができるようになったら完了か」という卒業基準の設計です。知識・スキルの習得は全員同時でなくていい。個別に、自分のペースで進められる環境があれば、研修室で全員が同じ内容に向き合う必然性はなくなります。

Re-onboarding:仕事に「こなされる」前に
仕事に慣れてきた頃に、意図的にドライブをかける瞬間を設計する。これがRe-onboardingです。「あなたへの期待は、ここから変わる」と伝え、次のステージへの挑戦を促す。意識しなければ自然には起きませんが、この瞬間の有無が、人材の成長曲線を大きく分けると感じています。

Ever-onboarding:人は、アンラーンし続ける存在だ
最後に、少し根本的な話をさせてください。AIが仕事の中身を変え続ける時代に、「育成が完了した状態」というものは、もはや存在しないのではないかと私は思っています。昨日まで正解だったやり方が、今日から通用しなくなることが起きる。こうした速度の中で必要なのは、知識を「持っていること」よりも、知識を「手放して学び直せること」ではないでしょうか。Ever-onboardingとは、学びを入社時の通過儀礼としてではなく、キャリアを通じて繰り返される更新のプロセスとして捉え直すことです。

5. おわりに

AIが手続きを担えるようになったことは、人材開発にとっての問い直しの機会だと感じています。効率化できることを効率化した先で、人間がすべき育成の本質とは何か。その問いを持ち続ける組織が、これからの時代に人を育て続けられるのではないでしょうか。この問いを、ぜひあなたの組織でも持ち帰ってみてください。

参照記事:Josh Bersin(2026年1月)/ Phenom(2026年2月)/ Appical(2026年1月)/ AIHR(2026年3月)

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