KNOWLEDGE LIBRARY組織と学びをアップデートする知見の集積

キーワード

絞り込み検索

2026.08.10

なぜ、リーダーは「わかっていても、変われない」のか——行動を引き戻す"守りたい前提"を、見えるようにする

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
なぜ、リーダーは「わかっていても、変われない」のか——行動を引き戻す”守りたい前提”を、見えるようにする
「傾聴を、大切にしよう」。リーダーとして、私は何度もそう決めてきました。相手の話を、最後まで聴く。自分の考えは、いったん脇に置く。ところが、いざその場になると、聴いているつもりが、途中から自分の考えの正しさを証明したくなって、気づけば、私のほうが話している。

頭では、わかっている。何度も決めた。それでも、変われない。任せる、問いかける、反対意見を歓迎する——どれも深く頷いたのに、いざその場になると、体は昔どおりに動いてしまう。知識が足りないわけでも、やる気がないわけでもありません。むしろ真面目な人ほど、この「わかっているのに、変われない」壁にぶつかります。この記事で考えたいのは、その正体です。なぜ、リーダーは変われないのか。そして、なぜその答えが「リフレクション」に行き着くのか。

1. 「わかっているのに、変われない」——リーダーの現場で起きていること

いま、多くの企業が「統制型」から「自律型」へのマネジメントの移行を進めています。細かく指示して管理するのではなく、任せて、問いかけ、自分で考える人を育てる。それが成果につながる時代になったからです。リーダーたちも、この変化を理解しています。研修を受け、書籍を読み、深く頷く。ところが、現場に戻ると、こんなことが起きます。「任せよう」と決めたのに、つい自分で巻き取る。「問いかけよう」としたのに、気づけば自分が答えを言っている。「反対意見を歓迎しよう」としたのに、身構えて反論で返す。どれも、やろうとしたことと、実際にやったことが、正反対です。そして多くのリーダーは、月曜にはまた元どおりに戻っています。

ここで、私たちは一つの対処に頼りがちです。もっと良い研修を受けさせ、正しい行動を教えれば、いつか変わるはずだ、と。けれど、この発想は「変われないのは、知らないからだ」という前提に立っています。しかし、先ほどのリーダーたちは、任せ方も、問いかけ方も、すでに知っていました。知っていて、なお、できなかった。だとすれば、足りないのは知識ではありません。行動を、昔のやり方へと引き戻している、別の何かがあるのです。

2. 変われないのは、意志ではなく”守りたい前提”のせい

その「別の何か」を、鮮やかに描いた研究があります。ハーバード大学の発達心理学者ロバート・キーガンと、リサ・ラスコウ・レイヒーは、「人はなぜ、本気で変わろうと思っても変われないのか」を長く研究してきました。二人の答えは、私たちの直感を裏切ります。変われないのは、意志が弱いからでも、努力が足りないからでもない、というのです。

二人によれば、人の中では、変化に対する一種の「免疫」が働いています。体が異物を排除するように、心も、慣れ親しんだ自分を守ろうとする。表向きは「変わりたい」と願っているのに、その裏で、それと競合する別の目標が、同じくらい強く働いている。だから、アクセルとブレーキを同時に踏むように、行動はその場で止まり、元へ戻ります。

先ほどのリーダーに当てはめてみます。「任せよう」の奥には、〈自分がやったほうが、早くて確実だ〉という前提が潜んでいます。「問いかけよう」の奥には、〈答えを示してこそ、リーダーの価値だ〉がある。冒頭の私の「傾聴しよう」も、同じでした。その奥には、〈自分の考えの正しさを示せてこそ、リーダーだ〉という前提が、しっかり根を張っていた。この、行動の奥にある強力な固定観念——ものの見方や判断の基準になっている、無意識の前提を、メンタルモデルと呼びます。

厄介なのは、統制型のメンタルモデルが、たいてい過去の成功体験からつくられていることです。かつて、自分で巻き取り、答えを示すことで、成果を出し、評価されてきた。その成功が、いまの前提を強く支えている。だから、頭で「時代が変わった」と理解しても、前提は無意識のまま、行動を昔へ戻す。リーダーが変われないのは、真面目さが足りないからではなく、むしろ、かつて真面目に成果を出してきたからなのです。

だとすれば、変えるべきは、行動ではありません。その奥の、見えないまま行動を決めている前提のほうです。そして前提は、見えないうちは書き換えられません。まず、見えるようにすること。ここに、リフレクションの出番があります。

3. リフレクション=「思慮深さ」で、前提を見えるようにする

リフレクションという言葉には、少し手垢がついています。反省すること。感想を書くこと。静かな場所で、あとで自分と向き合うこと。多くの職場で、そう受け取られています。けれど、本来のリフレクションは、そのどれとも違います。一語で言えば、「思慮深さ」。自己を客観的に、かつ批判的に振り返る力です。(※)ここでいう「批判的」とは、自分を責めることではありません。自分の判断の奥にある前提を、点検することです。過去のミスを裁くのではなく、いま自分を動かしている前提を、その場で見に行くことなのです。

では、この「思慮深さ」を、どう鍛えるのか。鍵は、メタ認知を鍛えることです。メタ認知とは、もう一人の自分が、自分を客観視する力。判断している自分を、一段高いところから眺め、「いま自分は、任せると決めたのに、巻き取ろうとしている。なぜだろう」と、その場で気づく。この、動きながら自分を見るはたらきが、リフレクションの中核です。

そして、そのメタ認知を鍛える手段として使えるのが、21世紀学び研究所が提唱する「認知の4点セット」(※)というフレームワークです。ある出来事に反応したとき、自分の中で動いている「意見・経験・感情・価値観」の4つを、ていねいにほどく道具です。たとえば、部下の提案につい反論したくなったとき。意見は「その進め方は甘い」。経験は「昔それで失敗した」。感情は「いらだち」。そして、その奥の価値観は「確実さこそ正しい」。ここまでほどくと、〈確実さこそ正しい〉という自分の前提が、はじめて姿を現します。

とりわけ手がかりになるのが、感情です。感情は、消すべきノイズではありません。自分の価値観が何かに反応したことを知らせる、いちばん早く届くデータです。いらだちや焦りが動いたら、その奥に、守ろうとしている前提がある。感情を入口に4つをたどれば、免疫の正体は見えるようになります。

見えるようになった前提は、はじめて点検にかけられます。〈自分がやったほうが早い〉は、いつでも正しいのか。前提を、絶対の真実から、数ある見方の一つへと置き直す。すると、行動は、無理に我慢するのではなく、自然に変わりはじめます。

そしてこの変化は、一つの行動にとどまりません。前提が更新されると、判断の質が上がり、自分のバイアスに気づける。人が育つ——答えを与える存在から、問いで気づかせる存在へ変わる。文化が変わる——リーダーが気づき直す姿が、周囲にも「考え直していい」という空気をつくる。そして、AI時代の価値。答えを出すことをAIが担う時代に、人に残るのは、何を問い、何を大切にするかを決める力です。

4. リーダーにとってリフレクションは、土台スキルである

ここまで来ると、最初の問い——なぜ、リーダーは変われないのか——の答えが、輪郭を持ってきます。変われないのは、能力や意志の問題ではなく、行動の奥の前提が見えていなかったからでした。そして、その前提を見えるようにする力が、リフレクションでした。

この捉え直しは、リーダーに二つのものをもたらします。一つは、「変わらない自分」を責めなくてよくなること。変われないのは、免疫が働いているだけであって、人格の欠陥ではありません。責める代わりに、前提を点検すればいい。もう一つは、変える対象が、部下から自分に戻ること。リーダーはつい、変わらない部下を変えようとしますが、まず点検したいのは、その部下の見方を決めている、自分自身の前提のほうです。矢印を自分に向け直すと、動かせるものが増えます。

そして、リーダーにこそリフレクションが要る理由が、もう一つあります。リーダーの仕事は、意思決定の連続です。正解が用意されていない判断ほど、最後はリーダーの手元に回ってくる。決める回数が増えるほど、人は「自分は、何を軸に決めているのか」を問わずにいられなくなります。その軸は、一度決めれば手に入るものではありません。日々の判断のなかで、自分がどんな前提に立って決めたのかを点検し、〈これは本当に大切にしたい基準か〉を確かめ直す——その積み重ねだけが、軸をつくります。無意識のまま行動を昔へ引き戻す”守りたい前提”を、自分で選び取った”ブレない軸”へと変えていく。リフレクションとは、その営みです。

研修担当者にとって、これは設計思想の問い直しでもあります。管理職研修を「正しい行動を教える場」として組むうちは、学んだ行動は月曜の前提に負け続けます。行動を足す前に、それを縛る前提を本人が見えるようにする——この順番が、変化の分かれ目です。

だとすれば、最後に置きたい問いは、これです。あなたがいま変えようとしているのは、部下の動き方でしょうか。それとも、その手前にある、あなた自身の”守りたい前提”でしょうか。その問いに向き合えるかどうかが、統制型の成功体験を抱えたまま止まるリーダーと、そこから静かに更新し続けるリーダーとを、分けていくのだろうと思います。

※ 本記事における「リフレクションの定義」および「認知の4点セット(意見・経験・感情・価値観)」は、一般社団法人21世紀学び研究所の考え方に基づいています。

新着情報

OTHER新着記事

純粋に、貪欲に、新たな気づきと学びを求める人へ。