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2026.09.14

ダイバーシティ疲れは、多様性を三つに分けると止まる

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
ダイバーシティ疲れは、多様性を三つに分けると止まる
「多様性の価値よりも、多様性によるストレスのほうが大きい」。 この趣旨の発言を、最近よく聞きます。口にするのは、数値目標を達成し、社内で旗を振ってきた推進担当者のほうです。

多様な意見は、確かに出ています。それでも出てきた結論は、多様な意見が活かされた結論には見えない。手間だけが増えていきます。

疲れの原因は、施策の不足ではありません。「多様性」という一語で、性質のまったく違う三つのものをまとめて扱っていることにあります。

1. 多様な意見は出ている。それでも結論が変わらないのはなぜか

女性管理職比率は目標に届いた。外国籍のメンバーも増えた。それでも現場で増えたのは、手応えではなく判断に迷う場面のほうでした。時短勤務のメンバーに任せる案件の線引きに迷う。自分の一言が配慮を欠いていなかったかを思い返す。割れた意見の間に入って収める。手はかかるのに、成果につながった実感がない。

こうなると多様性は、組織の力ではなく管理コストとして経験されます。ダイバーシティ疲れ(多様性への対応が義務感だけの負担になっている状態)の中身は、たいていこれです。弊社がDEI推進の相談を受けるときも、業種や規模を問わず、ほぼ同じ形で語られます。

では、会議では何が起きているのでしょうか。意見が出ないわけではありません。出た意見が、結論に届いていないのです。議題はすでに三つの選択肢に絞られ、持ち時間は四十分。前提のずれた意見を差し込めば「それは今日の論点ではないので」と戻され、割れれば「すり合わせ」で処理される。それはたいてい、少数側が降りることです。結果として、議事録には多様な意見が並び、決まったことだけが以前と変わりません。

DEIのうち進みやすいのは、最初のD(多様性)です。在籍している人数で測れるから、目標が立ち、達成を報告できる。対してI(包括性=全員が自分らしく力を発揮できている状態)とE(公平性=一人ひとりに必要なものを届けること)は、在籍では測れません。止まっているのは施策ではなく、多様性という言葉の解像度のほうです。

2. 「多様性」をひとくくりにすると、打つべき手が決まらない

人材開発の窓口には、二種類の相談が同じ「多様性の問題」として持ち込まれます。時短勤務のメンバーにどこまで任せていいか分からない、という相談と、会議で意見が割れて議論が止まる、という相談。前者は一対一、後者は集団の場面で、打ち手はまったく違います。

弊社は、価値に変えるべき多様性を三つに分けて扱います。扱う対象も、マネジメントの焦点も、現れる業務の場面も、三つとも違います。

一つ目は、多様な働き方です。 扱うのは、時間や場所に制約を持つメンバー。焦点は、制約の中で組織への貢献と成長へのコミットメントを対話で合意すること。現れるのは、目標設定・アサインメント・1on1の場面です。

二つ目は、多様な強みです。 扱うのは、個人のスタイル——行動・思考・感情が連動して現れるパターン。「詰めが甘い」と見えていた相手が、実は全体像を描いてから細部に入る人だった、という違いです。焦点は、能力の高低ではなくスタイルとして理解し、活かすこと。

三つ目が、認知的多様性です。 扱うのは、集団の思考プロセス——ものの見方や考え方の違いそのもの。焦点は、違いを安全に表に出させ、対話させ、統合すること。現れる場面だけが前の二つと違い、チーム会議と対立の場面になります。

体を鍛えるときと同じ構造です。「体力をつけたい」だけでは何をすればいいか決まりません。筋力、持久力、柔軟性は別々の力で、鍛え方も測り方も違う。ランニングをどれだけ増やしても、体は柔らかくならない。配慮をどれだけ積み増しても、会議で出てくる見方の数は増えないのと同じです。

多くの組織の取り組みは、一つ目と二つ目に寄っています。制約への配慮、アサインの工夫、強みの診断。扱われているのは個人と上司の関係であって、集団の思考プロセスではありません。眠っているのは、三つ目です。

一言で言うと、一つ目と二つ目は守る多様性、三つ目は使う多様性です。守るべきものが増えれば管理コストは増える。「価値よりストレスが大きい」状態は、ここから生まれています。使う多様性は、使わなければそこにあること自体、誰にも分かりません。

3. 認知的多様性は、「なぜそう見えたか」を聴くまで現れない

認知的多様性というと、いろいろな意見が出ることだと思われがちですが、実際は違います。意見が出ること自体ではなく、その人がなぜそう見ているのか——判断の尺度が突き合わされ、結論に使われることです。では、その尺度をどう表に出すのでしょうか。

人は誰でも自分の「当たり前」を通して世界を見ています。この前提をメンタルモデル(ものの見方の枠組み)と呼びます。自分では「当たり前」としか感じないため、普段は意識にのぼりません。「犬は嫌いだ」の下には、追いかけられた経験と、怖いという感情があります。

これを四つに分けて見る道具が、認知の4点セットです。表に出ている「意見」の下に「経験」があり、それに紐づく「感情」があり、さらに奥に「価値観」がある。机の上に出ているのは、いちばん上の一段だけです。

意見だけを突き合わせれば、議論は「どちらが正しいか」に向かいます。では、下の三段を聞くと何が変わるのでしょうか。

たとえば、新しいサービスをいつ公開するかを決める会議です。残っている不具合は3件。同じ一覧を見て、事業部の担当者は「出せます」と即答し、品質保証の担当者は「出せません」と答える。

事業部の担当者には、公開を一か月遅らせているあいだに競合が先に出し、そこから巻き返せなかった経験があります。その悔しさから、機を逃すことを最大の損失として見ている。品質保証の担当者には、公開後に不具合が見つかり、謝罪と回収に三か月を使った経験があります。その怖さから、信用を落とすことを最大の損失として見ている。どちらも、痛い思いをして手に入れた尺度です。

ここまで降りると、問いが変わります。「どちらが正しいか」ではなく、「この議論の目的に照らして、どちらの尺度を優先すべきか」になる。一部の顧客に先に使ってもらい、反応を見るための公開ならスピード。毎日の基幹業務で使われる公開なら安全。どちらの意見も捨てられていません。

ただし、この下の三段は、放っておいても出てきません。必要なのは、評価判断を保留にするという構えです。違和感が湧くのは自然なこと。それを決めつけに変えず、いったん脇に置く。ここではじめて、自分の知らない世界から学べます。

この一連が、リフレクションです。一人で静かに振り返る時間だと思われがちですが、実際は違います。熊平美香氏は『リフレクション』(2021年)で、自己を客観的かつ批判的に振り返る行為と定義しました。一人で振り返るかぎり、見えるのは自分がすでに見えているものだけなのです。

4. 多様性を眠らせるチームは、違いではなく共通点を探している

同じメンバー構成でも、多様性が眠っているチームと活きているチームがあります。分かれ目は、話し合いで共通点を探しているか、違いを探しているかです。

共通点を探すチームでは、「うちも同じです」とうなずきが連鎖し、三十分で結論が出ます。気持ちよく進みますが、使われているのは全員がすでに持っていた見方だけです。

違いを探すチームでは、「私には、そうは見えていません」の一言で話が止まる。時間はかかり、居心地もよくない。その代わり、出てくる結論は、部屋に入る前の誰の頭の中にもなかったものになります。

支えているのは、スキルより先に文化です。心理的安全性(何を言っても立場が悪くならないと全員が思えている状態)に加えて、異論を出した人が、場に貢献したと扱われること。ロビン・イーリーとデイヴィッド・トーマスが2001年に発表した三組織の事例研究でも、多様性が成果につながったのは、違いを仕事のやり方を問い直す資源として扱った組織だけでした。

測る対象も変わります。数えるべきは人数ではなく、配置した多様性のうち、実際に意思決定に使われた割合です。これを「多様性の稼働率」と呼ぶことにします。議事録に意見が並んでいても、結論に一つも反映されていなければ稼働率はゼロ。人事施策の指標には、それが一切表れません。

5. 走っている施策を、三つの多様性で仕分けてみる

明日からやることは、一つだけです。

紙を一枚用意し、縦に三本線を引いてください。左から「多様な働き方」「多様な強み」「認知的多様性」。そこへ、いま走っているDEI関連の施策を書き込みます。短時間勤務制度、バイアス研修、強みの診断ツール、相談窓口、1on1研修。おそらく左の二列は埋まり、右の一列はほとんど空になります。

空欄になった列が、次に設計すべき場所です。 そこが空のまま配慮を積み増しても、会議の景色は変わりません。認知的多様性が現れるのは会議と対立場面なので、必要なのは制度ではなく、その場の進め方に置く一手だからです。結論を出す直前に、採らなかった意見を一つ取り上げて聞く。「そう見えたのは、どんな経験からですか」。四十分の会議に、三分足すだけの話です。

仕分けると、もう一つ見えてきます。三列のほとんどが、マネージャー一人の力量に委ねられていることです。DEIが管理職一人の課題として閉じているかぎり、打ち手は対処スキルの追加にしかなりません。 インクルージョンは関係性の中で起きるので、片側だけを鍛えても成立しない。メンバー側にも同じ言葉が届いているかを、仕分け表の余白は映し出します。

手に入るものは三つです。「多様性が足りているか」ではなく「どの多様性が使われていないか」で点検できること。対立を、摩擦ではなく共有されていない経験の在りかとして扱えること。打ち手が、配慮の積み増しから会議の設計へ移ることです。

視座の転換

統制型のマネジメントはそのままに、その上へ多様性への対応を一つずつ足していく。ダイバーシティ疲れの正体は、この構造にあります。三つに分ければ、その積み増しは止まります。守る二つと使う一つでは、打つべき手がそもそも別だと分かるからです。

問われているのは、配慮のスキルを足すことではなく、マネジメントの前提そのものを更新することです。

——先週、あなたの組織で決まったことのうち、同質なメンバーで決めていたら別の結論になっていたものは、いくつあったでしょうか。

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