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2026.10.12

エンゲージメント診断で課長が読んでいるのは、自分の経験だ

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
エンゲージメント診断で課長が読んでいるのは、自分の経験だ
エンゲージメント診断の結果を、課長は活かせているでしょうか。

結果を配り、対策を出してもらう。課長は真面目に取り組みます。それでも翌年、数字はほとんど動きません。結果をいちばん重く受け止めているのは、課の点数を自分への評価として受け取る課長です。

同じ結果を見ても、課長によって読み取るものはまったく違います。課長が読んでいるのは、数字ではないからです。

1. 同じ結果を渡しても、課長ごとに読み取ることが違う

診断結果を受け止める役は、どうしても課長に回ってきます。ギャラップは2015年の報告で、チームのエンゲージメントのばらつきの少なくとも7割は、マネジャーによって説明されるとしています。職場の空気を左右しているのは、それだけ課長だということです。

その課長自身も、苦しくなっています。ギャラップの2025年の報告では、世界のマネジャーのエンゲージメントは、1年で30%から27%に下がりました。期待される役目は重く、受け止める本人の余裕は減っています。

では、結果を受け取った課長は、そこから何を読んでいるのでしょうか。
三つの課で、同じ設問の点数が全社の平均を下回ったとします。「仕事について、上司と率直に話せている」。

A課長は、こう読みます。「いつでも話は聞くと言ってある。遠慮しているのは部下のほうだ」。B課長は、「忙しくて時間を取れていなかった」と読み、翌週から1on1の回数を増やします。C課長は、「最近の若手は、本音を言わない」と読みます。

数字は同じです。それなのに、三人の読みはまったく違います。
半年後、B課長の課では1on1の時間が増えました。けれどメンバーは「話すことがないのに、時間だけ取られる」と感じています。A課長とC課長の課では、何も変わっていません。

三人の動きには、共通点が三つあります。

一つ目は、最初に一番下の項目を見たことです。点数の低い順に並んだレポートを開くと、目は自然とそこに行きます。この並びは、優先して手を打つ場所を示すためのものです。けれど課長には、「自分が直すべき場所」として届きます。

二つ目は、理由を自分で決めたことです。三人とも、メンバーに一度も聞かないまま「なぜ低いのか」に答えを出しています。

三つ目は、一人で手を打とうとしたことです。対策を考えるのは自分の仕事だと、三人とも思っています。

2. 経験というサングラスは、かけている本人には見えない

なぜ、同じ数字から違う読みが出てくるのでしょうか。

診断結果は数字なので、誰が読んでも同じことが分かると思われがちです。実際は違います。数字そのものは同じでも、そこに意味をつけるのは読む人です。

A課長は若いころ、上司に何でも言える職場で育ちました。だから「話は聞くと言えば、部下は話してくれる」と思っています。B課長は、忙しい上司に相談できずに困った経験があります。C課長は、自分から本音をぶつけて仕事を覚えてきました。

三人とも、数字を読んでいるつもりで、自分の経験を読んでいます。

人は誰でも、自分の経験から作られた「当たり前」を通して物事を見ています。この当たり前を、メンタルモデルと呼びます。自分では当たり前としか感じないので、普段は意識にのぼりません。

色付きのサングラスと同じです。青いサングラスをかけると、景色は全部青く見えます。しばらくかけていると、かけていることも忘れます。そして青く見えているのは、景色のせいだと思い込みます。

診断結果が景色、課長の経験がサングラス、課長の読みが見えている色にあたります。景色をいくら見つめ直しても、色は変わりません。変えられるのは、自分がサングラスをかけていると気づくことだけです。

人事が設問を増やしたり、分析を細かくしたりしても、同じことが起きます。景色がくっきり見えるようになっても、サングラスの色は残るからです。

点数を「自分への評価」として受け取ると、サングラスはさらに濃くなります。キュルガーとデニシが1996年にフィードバックの研究をまとめたところ、およそ3分の1のフィードバックは、かえって成果を下げていました。受け取った人の注意が、仕事から「自分がどう評価されたか」に移ると、逆効果になります。課長が一番下の項目に目を奪われ、一人で直そうとするのも、この流れの中にあります。

3. 自分の読みを「読み」として見ると、メンバーに聴くことが決まる

では、サングラスに気づくには、どうすればいいのでしょうか。

自分の考えや感じ方を、もう一人の自分が一歩引いて見る。これをメタ認知と呼びます。自分を客観的に振り返る、リフレクションの土台になる力です。
メタ認知は、特別な才能ではありません。頭の中にある考えを紙に書き出すだけで、自分の考えが目の前に置かれ、少し離れて見られるようになります。

診断結果の読み方に当てはめると、やることは二つです。

一つ目は、事実と読みを分けることです。「この設問が、全社の平均より低い」は事実です。「遠慮しているのは部下のほうだ」は、A課長の読みです。この二つを、紙の上で別々の行に書きます。

二つ目は、読みの出どころをたどることです。A課長の場合、次の四つに分けて書き出すと見えてきます。

  • 意見:遠慮しているのは部下のほうだ
  • 経験:若いころ、上司に何でも言える職場で育った
  • 感情:話を聞く姿勢を見せているのに、と少し不満がある
  • 価値観:言うべきことは自分から言うもの

書き出してみると、「遠慮しているのは部下」という読みは、点数からではなく、A課長の若いころから来ていると分かります。これが、サングラスに気づいた状態です。

気づくと、次に何をすればいいかが決まります。自分の読みは、一つの見方にすぎない。だとしたら、メンバーには同じ点数がどう見えているのかを聴けばいい。

聴くときは、課長が自分の読みを先に話します。課長が答えを伏せたまま数字だけを見せると、メンバーは「課長は本当はどう思っているのか」を探り始めるからです。A課長なら、「私は、みんなが遠慮しているのだと読んだ。若いころ、上司に何でも言える職場で育ったからだと思う。みなさんには、どう見えていますか」と話します。

聴いてみると、メンバーの読みは「話し始めると、途中から課長の意見が始まる」だった、ということが起こりえます。A課長が聞いているつもりの時間は、メンバーにとっては聞いてもらえない時間だったわけです。

B課長が聴けば、問題は1on1の回数ではなく中身だと分かるかもしれません。C課長が聴けば、若手が本音を言わないのは、言ったあとに何も変わらなかった経験があるからだと分かるかもしれません。同じ点数の裏に、課ごとに違う事情があります。

一言で言うと、診断結果を読むとは、数字を読むことではなく、自分の読み方に気づくことです。それができて初めて、メンバーとの話し合いが、課長の考えの答え合わせではなく、互いの見え方を聴き合う場になります。

4. 結果を配るときの頼み方を、「対策」から「あなたの読み」に変える

結果を配る案内文には、たいてい「低い項目への対策を考えてください」と書いてあります。この一文を書き換えます。

代わりに、課長に三行だけ書いてもらいます。

  • 気になった数字(事実)
  • 自分はそれを、どう読んだか(読み)
  • そう読んだのは、自分のどんな経験からか(出どころ)

A課長なら、「率直に話せているかの設問が、全社平均より低い」「遠慮しているのは部下のほうだと読んだ」「若いころ、上司に何でも言える職場で育った」の三行になります。

課長はこの三行を持って、課のメンバーに話します。話し終えたら、「みなさんには、この数字がどう見えていますか」と一言足します。

対策は、そのあとで考えます。課長一人ではなく、課のみんなで考えます。

人事の手元にも、課長全員の三行が集まります。並べてみると、同じ設問を課長たちがどれだけ違う読み方をしているかが分かります。管理職研修で何を扱えばいいかも、この三行から決められます。

この頼み方に変えると、手に入るものが三つあります。課長が、事実と自分の読みを分けて話せるようになること。同じ数字でもメンバーによって受け止めが違うと、課の全員が知ること。そして、対策を課長一人で抱えなくてよくなることです。

視座の転換

診断結果を、職場の状態を測る道具として渡しているあいだ、課長の仕事は対策を考えることでした。自分の読み方に気づく道具として渡すと、仕事が変わります。自分の読みを話し、メンバーの読みを聴き、違いから一緒に手を考える。診断結果は、職場を映すと同時に、それを読む課長の見方も映しています。

——あなたの会社の課長は、診断結果を見て、自分がなぜそう読んだのかを話せるでしょうか。

出典

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