人材教育に携わっていると、「これまでのやり方では限界がある」と感じることも多いのではないでしょうか。
「そもそも人材開発担当者の役割とは何だろう」といった、根本的な疑問を抱くこともあるかもしれません。そう思うのも当たり前のことで、実は人材開発担当者の役割も変化しているのです。
では、どのように変わっているのか。それを理解するキーワードとなるのが、「キュレーション」です。この記事では、企業内学習におけるキュレーションの重要性について、人材開発担当者に求められている役割と照らし合わせながらご紹介します。
1. キュレーションとは、「コンテンツをつくらず選び、編集する」こと
ここで言う「キュレーション」とは、コンテンツ・ナレッジの一つで、以下のように定義されます。
さまざまな情報を特定の視点から収集、選別、編集することで新しい価値を創造する活動。
「キュレーションサイト」または「まとめサイト」のことと言うと、「キュレーションとはどういうものか」をイメージしやすいかもしれません。
キュレーションを実施する人のことを「キュレーター」と呼びます。キュレーターは、特定のテーマに関する情報を選り抜き、それを最適な形で編集します。そして、「キュレーションできること」が、現在、企業の人材開発担当者に求められているスキルなのです。
2. クリエイターからキュレーターへ:人材開発担当者の役割の変化
人材開発担当者の役割が変化した背景には、テクノロジーの発展があります。
これまでの人材開発担当者仕事というと
・研修を企画する
・学習内容を社内または社外に依頼して作成する
というふうに、研修をイチから作るというのが中心でした。
しかし、この方法では急激な変化に対して、全てのコンテンツを揃えるということが困難になるなど限界があります。
そこで注目されるようになったのが、キュレーションです。納得のいくコンテンツ作りにこだわるがために、必要なタイミングで学習を提供できないというのは本末転倒。世の中には、多くの優れたコンテンツが出回っています。「学習者のタイミングに合わせて提供できるのなら、イチから作ることだけを選択肢にせず、こうしたコンテンツも使おうじゃないか」というのがキュレーションの考え方です。
つまり、良質のコンテンツをブレンドして、その時点で最も効果的な学び方を提供することが、キュレーションの役目であり、人材開発担当者に求められているスキルなのです。
3. コンテンツキュレーションの種類について
キュレーションの対象となる主なコンテンツは、以下の4種類です。
#1. すでにある職場内の各種ナレッジ
#2. 自組織で開発するもの
#3. 世の中で提供される無限のコンテンツ
#4. コンテンツベンダー
各コンテンツについて、どういうものか説明します。
#1. すでにある職場内の各種ナレッジ
動画素材やファイルなど、すでに社内で活用していた素材を指します。もう少し具体的に言うと、創業者のインタビューを収録した動画などが挙げられるでしょう。こうした素材の中から、ラーニングに使えるものをキュレーションして学習コンテンツに役立てます。
#2. 自組織で開発するもの
英語の、「UGC(User Generated Contents)」にあたるコンテンツのことです。開発と言うと、難しく聞こえるかもしれませんが、例えば
・現場社員にノウハウに関するインタビューを実施し、その様子を収録する
・必要な情報に詳しいと思われる社員にヒアリングする
などが、自組織で開発するコンテンツと言えるでしょう。
コンテンツの作成方法は、スマートフォンで録画・編集するシンプルなものから、外部に委託する大掛かりなものまで多岐にわたります。
#3. 世の中で提供される無限のコンテンツ
インターネット上で収集できるコンテンツのことを指します。YouTubeやニュース記事、専門誌の記事、あるいは報道機関が配信している動画など、著作権の問題がクリアなコンテンツは多岐にわたります。
なお、利用可能なコンテンツには、無料のものもあれば、有料のものもあります。
#4. コンテンツベンダー
コンテンツベンダー(研修会社やeラーニング業者など)が製造・販売しているコンテンツも、キュレーションの対象です。
これらのコンテンツは、使用できる範囲は限定されてしまいますが、優れたものも多く、年間レンタルやパートナー契約などによって利用可能です。
4. 実は企業内学習の9割を占めている「インフォーマル・ラーニング」
企業内学習と、研修を同義語として理解している人も少なくありません。しかし、「企業内学習」は、フォーマル・ラーニング(公式の学習)とインフォーマル・ラーニング(非公式の学習)との組み合わせなのです。
通勤途中にグーグルを使って検索をしたり、仕事中に上司や同僚と話したりした時に、何かしらの気づきがありますが、これらも全て「学び」であり、私たちは日々、あらゆる場面で学んでいます。つまり、仕事の成果に結びつく学習は、机の上だけで行われているとは限らないのです。
アメリカのロミンガー社が実施した「成果に結びつく学習はどこで起きているのか」という研究によりますと、成果に結びつく学習には、70:20:10の法則が当てはまるということです。
内訳は以下のとおりです。
①70:日常での経験(インフォーマル・ラーニング)
②20:上司や同僚との対話など(インフォーマル・ラーニング)
③10:研修など(フォーマル・ラーニング)
これは、成果に結びつく学びのうち70%は日々の仕事現場での経験で培われ、20%は仕事における他者との関わりによってもたらされるというものです。企業が提供する研修は、全体の10%程度というのは、意外に感じるのではないでしょうか。この結果から、学びをデザインする際、フォーマル・ラーニングに着目するだけでは不十分であることがわかります。
前章で、コンテンツキュレーションの種類をご紹介しましたが、これらはどちらかと言うと、フォーマル・ラーニングに分類されます。成果に結びつく学び全体をフォーマル・ラーニングとインフォーマル・ラーニングの組み合わせと捉えると、「日常の学び」というのも、コンテンツキュレーションの一つに入れるべきでしょう。
5. キュレーションを実践していくうえでのポイント
キュレーターの役割は、この世にある優良のコンテンツを収集・編集し、必要なタイミングで出すことです。そのためには「コンテンツを素早く効率的に集め編集する」ことが、キュレーターにとって欠かせないスキルと言えるでしょう。
この点を踏まえ、キュレーションするうえでの実践ポイントとして、次の2つが挙げられます。
- 「良質のコンテンツ」と「情報の鮮度」という2つの観点からコンテンツを選定・加工する
- 社内外にある情報を日々収集する
1)「良質のコンテンツ」と「情報の鮮度」という2つの観点からコンテンツを選定・加工するコンテンツキュレーションの種類は
1.社内にあるもの・新たに作成するもの
2.社外にある無料・有料媒体
3.日常の学び
の3つに大きく分けられます。
これらのコンテンツを必要に応じて選定・加工するわけですが、ここにもう一つ「情報の鮮度」という観点から見たコンテンツの種類についても考慮することが大切です。
コンテンツを情報の鮮度と量から分類すると、以下のように分類されます。
1.コンテンツを単に収集したコンテンツ
2.情報源・学習源として活用するコンテンツ
3.時事性・話題性のあるコンテンツ
4.即時性のあるコンテンツ
情報鮮度が高ければ高いほど、コンテンツの量は少なく、情報鮮度が低くなるにつれて、コンテンツの量は多くなります。
例えば、Twitterはリアルタイムで最新の情報を発信していますが、投稿は140字以内とコンテンツ量は少なめです。一方書籍は、複数の項目が体系的に整理されていて、情報の鮮度は低いですが、コンテンツ量は多めの傾向にあります。
情報鮮度が高い=良質のコンテンツというわけではなく、各コンテンツの特徴を把握し、伝える内容に応じて使い分けることが大切です。
2) 社内外にある情報を日々収集する
1)で説明した2つの観点を持ち、日頃から社内外にある情報を収集していくことが、2つめのポイントです。より良いコンテンツキュレーション作りに求められているのは、スピードと情報量。常に社内外にアンテナを張り、世の中の動きを把握する必要があります。
ツールを使ってソーシャルメディアの情報を収集する、話題性のある情報をキャッチするといった方法がありますが、同じように大事なのは、その分野に詳しい人に聞くこと。なぜなら、自分で調べるよりもずっと早く作業を進められるからです。
特に、企業内学習の大半を占めるインフォーマル・ラーニングについては、日々現場との接点を持ち、社内にどのような人がいるかを知る努力をすることです。自分の足で歩き回って得た情報は、新たな価値を生み出すコンテンツを作るための素材になるでしょう。
6. まとめ:キュレーションを良質のコンテンツ作りに役立てようズにフィットした研修設計を!
ご紹介したコンテンツキュレーションの種類は、以下の5つでした。
①すでにある職場内の各種ナレッジ
②自組織で開発するもの
③世の中で提供される無限のコンテンツ
④コンテンツベンダー
⑤日常の学び
①~④はフォーマル・ラーニングで、⑤はインフォーマル・ラーニングにそれぞれ分類されます。特に⑤は、企業内学習の9割を占めている、大事な要素であることを、忘れないようにしましょう。
そのうえで、人材開発担当者は「良質のコンテンツ」と「情報の鮮度」という2つの観点から社内外で情報収集を徹底し、コンテンツキュレーションの選定・加工を行うことがポイントです。
良質のコンテンツができるかどうかは、キュレーターの腕次第とも言えます。社内外をとりまく情報に敏感になると同時に、社内にはどのような人材がいるのか知る努力をし、キュレーターとしてのスキルを上げていきましょう。