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2022.02.12

これからの企業内学習のスタンダード。人材育成のROIを実現する「ラーニング・エコシステム」という考え方

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
これからの企業内学習のスタンダード。人材育成のROIを実現する「ラーニング・エコシステム」という考え方
新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、社内学習環境のオンライン化に取組む企業が増えています。その一方で、これからの企業内学習をどうプロデュースしていけばいいのか、戸惑う人も多いのではないでしょうか。

「戦略人事」という概念が注目を集めているように、学習が今まで以上に企業の競争優位性に影響を与えています。しかし、求めるスキルを持った人材育成の重要性を理解している経営者は多いものの、「無料のトレーニングなのに従業員が利用してくれない」「継続して学習する従業員が少ない」などの課題に悩まされているのが現状です。

スキルギャップを埋めるために外から採用することも可能ですが、それには限界があります(そもそも新しいスキルでいないことも多い)。結局、戦略を実行する上で「学習」を強化することが一番の解決策という結論に達しますが、学習を強化するには、「わかる」を「できる」ようにするという課題を克服しなければなりません。
限られた機会である【研修】だけでは「わかる」を「できる」にするには限界があり、その際に役立つのが、ラーニング・エコシステムという考え方です。

この記事では、新たな人材開発担当者の役割を理解するうえで欠かせないラーニング・エコシステムについて、分かりやすく説明します。

1. 戦略人事とこれからの人材開発担当者の役割

人材開発担当者なら、一度は「戦略人事」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。「戦略人事」とは、「戦略的人的資源管理(Strategic Human Resources Management)」の略語で、経営戦略の実現を見据えた人的マネジメントを意味します。
人的マネジメントの方向性を考え実行することが人材開発担当者の仕事になりますが、その中で学びが重要な役割を持っていることは言うまでもないでしょう。

学習の役割とは、「企業内における学習が担う役割」のことで、以下の4つあります。

こうしてみると、学習がもたらす効果は無限大で、やればやるほど成果に結びつけられることが期待できます。
しかし、学習の役割について正しく理解し、やりきっている企業はそう多くありません。
目標を達成するための人材育成というゴールの下、企業内学習のオンライン化を進めている企業も増えてきましたが、それだけでは戦略人事が目指すゴールを達成することは難しいでしょう。なぜなら、テクノロジーを導入しても、従来の学習が抱えている課題を克服することはできないからです。

従来の学びというと、研修期間における学習のことを指していました。年間スケジュールに記載されている「研修」を成功させるために、かなりの時間を費やしてきたのではないでしょうか。しかしこれは、企業内学習全体から見ると、ほんの一部なのです。

学習の現場は研修に限ったことではありません。人材の多様化と分散化が進み、新型コロナウイルス感染症の拡大は、リモートワークの普及を後押ししました。その結果、対面によるコミュニケーションの機会が減り、対話など意識的に取り組まないと起きづらくなってしまった”学び”があります。それが、「インフォーマル・ラーニング」です。
  
人はどこで学んでいるかについて調べてみると、実は人材開発担当者が提供する研修よりも、自主学習の方が圧倒的に長いことが分かります。

米ロミンガー社の調査によりますと、企業研修(フォーマル・ラーニング)が占めている成果に結びつく学びの割合は全体の10%に過ぎず、残りの90%は「他者との関わり(20%)」と「仕事経験(70%)」という、インフォーマル・ラーニングからでした。

このことから、インフォーマル・ラーニングは、これからの学習設計に欠かせない要素であることが分かります。と同時に、人材開発担当者には、フォーマル・ラーニングとインフォーマル・ラーニングを総合的にプロデュースしていく能力が求められているのです。

もう少し具体的に言うと、(「フォーマル」「インフォーマル」にかかわらず)「わかる」から「できる」までをプロデュースする「パフォーマンス・ラーニング(学習設計)」を一層意識することが必須です。
従来の研修では、学習者は講師から新たに知識やスキルを学ぶというスタイルが主流でした。しかし、「成果に直結させる学び」という視点から見ると、「知っている」だけでは不十分で、「できる」までを含めてはじめて「学んだ」と言えるのです。
パフォーマンス・ラーニングという学習方法は、「できる」ことを重要視し、練習にウェイトを置いています。

具体的な練習には

  • 自分の意見を述べる
  • テストに取り組む
  • 誰かに教えてあげる

などがあります。

例に挙げたタスクを組み込んだ練習・フィードバックを繰り返し、できるまで試行錯誤するようにデザインしてくのが、パフォーマンス・ラーニングの特徴です。
これらのことから、人材開発担当者の新たな役割は、職場を中心とした学習環境を整え、経営目標を達成するために必要な人材を育てることにあると言えるでしょう。
こうしたラーニングを社内で実現するには、人材開発担当者たちは毎日社内を歩き回って学びの状況を確認しなくてはならず、とても現実的とは言えません。

そこで実践したいのが、次の章でご紹介するテクノロジーを活用したラーニング・エコシステムの構築です。

2. ラーニング・エコシステムとは?

ラーニング・エコシステムとは、研修の場から仕事の中での学び、新しいスキルを試す場所、そして学習サポートまでをワークフローの中で循環させ、学び合いの文化を生み出す「学びの生態系」のことです。

この学習生態系は、学習者とそれを取り巻く社内外の人々、コンテンツ、そしてテクノロジーなどで形成されています。
ラーニング・エコシステムの要素は、以下の5つです。
#1.学びの場(Gardeners)
#2.学びを試す場(Hothouses)
#3.仕事の中で学ぶ(Streams)
#4.ナレッジサポート(Foundations)
#5.学習者中心の自立学習を支えるガイド(Pathway)

各要素について見てみましょう。

#1.学びの場

新しい考え方や新しい方針を聞くなど、他者から新たに学ぶ場を指します。具体的には、研修やオンライン討論、ディスカッション、仕事の共有などが挙げられます。
ここでは、学習者は一方通行で学ぶのではなく、そこにいる人々と学び合っています。

#2.学びを試す場

#1.で得た知識やスキルを実践する場が必要ですが、それが「学びを試す場」です。

#3.仕事の中で学ぶ

新しい作業に取組む際、事前に必要な知識を得ることが理想ですが、時には仕事中に学ぶ必要が出てきます。人材開発担当者は、従業員が仕事の流れの中で学習できるようシステムを整えます。

#4.ナレッジサポート

ここでは、学習者をサポートするためのコンテンツを取り揃えることが急務です。ただし、全ての作成は困難なため、コンテンツを作ることに加えて、すでにあるコンテンツを収集・編集する(キュレーション)ことも必要になるでしょう。

#5.学習者中心の自立学習を支えるガイド

学習者が、最短で「わかる」から「できる」ようになる学習方法とその手段を選べるガイド的な役割を果たしています。学習者は、新たに学んだスキルを使って練習し、パフォーマンスについてのフィードバックを得るなど、学習者中心の学習を展開していくことができます。
ラーニング・エコシステムの最大のメリットは、トレーニングと異なり、誰でも学びの発信者になれるという点です。つまり、一方通行の学びではなく、お互い学び合うことができる環境での学習を可能にします。
従来の企業内学習は、どちらかというと講師から学習者に知識を伝えるスタイルが主流でした。しかし、ラーニング・エコシステムでは、相互に学び合うことをより重視しています。さらに、フォーマル・ラーニングだけでなく、インフォーマル・ラーニングを自然な形で組込み、学習者が無理なく、しかも効率的に学べるよう工夫されています。

3. ラーニング・エコシステムの重要性

ラーニング・エコシステムは、学習者が結果を出せる人材として成長するための環境を提供します。

上の図から分かるとおり、ラーニング・エコシステムは、学びの中心に学習者を据えています。この学習体験デザイン(Learning Experience Design)では、学習者に必要なコンテンツが提供されます(①Learning Contents)。それを通じて、同僚や上司と話し合うなど学び合いが起こります(②Social Support)。さらに、お互いに学び合ったり、フィードバックを受けたりするなど、学習に必要な環境が整っていきます(③Learning Environment)。
この状態がキープできると、その組織では学び合いが当たり前のようになり、企業文化として定着していくことが期待できます。
このように、ラーニング・エコシステムは、学習環境をプロデュースするところまでが役割ですが、最終的には自社のポリシーやカルチャーにまで浸透化するというゴールを目指せる点で重要です。

4.  ラーニング・エコシステム構築に欠かせないラーニング・プラットフォーム

ラーニング・エコシステムを構築するにあたり、テクノロジーツールの使用は避けられません。
1つのツールで全て間に合えば問題ありませんが、この世に万能ツールと呼ばれるものはなく、学習を成果に結びつけることを考慮しながら、さまざまなツールを比較検討し、ケース・バイ・ケースで使い分ける必要があるでしょう。
そのため、さまざまなコンテンツやツール、学習形態を組合せられるようインフラを整備しておく必要があります。それを可能にするのが、ラーニング・プラットフォームです。

今後のラーニング・プラットフォームには、以下6つの要件に対応していることが求められています。

#1.パフォーマンス・ラーニング

・定着化まで支援できる(「分かる」から「できる」へ)

・成果(マインド変化/行動変容)につながる学習デザインを実現できる

#2.ブレンディッド・ラーニング

・3つの学習シーン(集合対面・オンライン研修・オンライン学習)を組合せられる

・オンライン・オフラインのほか、同期・非同期/一方向・双方向などさまざまな要素を組合せた学習を提供できる

#3.キュレーション

・提供側が簡単にコンテンツを作成できる

・あらゆるコンテンツをまとめて載せられる

・社内外のコンテンツを活用できる

#4.マイクロラーニング

・全社員が教え手にも学び手にもなれる

・必要な時に、必要な学びに手軽にアクセスできる

・現場の社員は簡単にコンテンツを作成・編集・配信できる

#5.インフォーマル・ラーニング

・公式の学習だけでなく、日常の学びまでカバーしている

・日常の学びを発信・共有・インタラクションできる

・AIでのリコメンドが可能

#6.学習管理

・コースの受講データをはじめ、あらゆる学習行動(完了、練習、評価など)の一元管理が可能なうえ、データに基づいたPDCAサイクルを回すことができる。

#1~#6に加えて、(学習者、講師、人事担当者にとっての)使いやすさや汎用性といった機能も含んだラーニング・プラットフォームが理想です。

5. まとめ

人材開発担当者の新たな役割からラーニング・エコシステムの重要性、そして学習生態系を構築するうえで今後ラーニング・プラットフォームに求められる要件について解説しました。
人材開発担当者の仕事は、研修を含めた企業内学習を総合的にプロデュースすること、つまり、ラーニング・エコシステムの構築です。
ラーニング・エコシステムは、以下の5つの要素で構成されていると説明しました。
#1.学びの場
#2.学びを試す場
#3.仕事の中で学ぶ
#4.ナレッジサポート
#5.学習者中心の自立学習を支えるガイド
ラーニング・プラットフォームは、学習生態系で使用するテクノロジーを一括管理し、各シーンで学びがスムーズに進むことをサポートします。

学習者にとって学びやすい環境を整えることは、結果を出す人材の育成につながります。
戦略人事に適ったラーニング・エコシステムを構築し、学び合いの文化を生み出していきましょう。
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