LIBRARY学びの記録・お知らせ

2022.12.08

有益な研修効果測定をもたらすアンケート活用方法

    有益な研修効果測定をもたらすアンケート活用方法
    前回の記事では、これからの研修効果測定にはトップダウンとボトムアップの考え方が必要ということを説明しました。

    さらに具体的な効果測定の手段として、アンケートがあるということについてもお伝えしました。

    しかし、「どのタイミングでどんな内容のアンケートを実施すべきか」という疑問を抱いている人も多いのではないでしょうか。

    効果測定を目的としたアンケートは、実施するタイミングと目的に合わせて設計することがポイントです。

    そこで本記事では、効果測定にアンケートをどう取り入れたらよいか知りたい人向けに、アンケートの具体的な活用方法について解説します。

    1) 研修効果測定におけるアンケートの役割とは

    アンケートは最も実行しやすい研修効果測定方法の1つです。

    知りたいことを設問し学習者がそれに答えるというシンプルさに加えて、

    • いつでもできる(研修前・研修後など)
    • どこでもできる(オフライン・オンライン)

    といった柔軟さが、アンケートにはあります。

    こうしたアンケートの特徴は、さまざまな研修効果測定に役立つため、研修を評価する手段として積極的に取り入れていくべきでしょう。

    ただし、実施した研修内容にフォーカスした従来のアンケート(例:講師の説明は分かりやすかったかどうか)手法だけでは、効果測定に十分な情報を引き出すことは難しいのが現状です。

    なぜなら、研修の形態がインフォメーション型からパフォーマンス型にシフトすることによって、学習の目的も変化したからです。

    1)-1 学習活動が担保できる効果は「マインドの変化」と「行動変容」の2つ

    現在の研修が目指しているのは、学習者のパフォーマンス向上です。
    具体的には、経営戦略を実践し目的を達成するために必要な知識を従業員に与え、それによって従業員は考えを新たに行動してもらうことが、研修の目的と考えて良いでしょう。

    効果測定が重要視されるのは、投資の対象である従業員が、研修を通してどのように変化したのかを評価・確認できるからです。

    そうすると、研修効果測定のポイントは、

    1. マインドの変化(仕事を進めていくうえで判断軸となる価値観の変化)
    2. 行動変容(仕事で成果に結びつく行動ができるようになること)

    の2点に絞られます。

    アンケートというと、研修の満足度調査を想像する人も多いでしょう。しかし、活用次第で幅広い情報を収集することができますし、そこには「マインドの変化」と「行動変容」の確認も含まれています。

    「マインドの変化」と「行動変容」が研修効果測定のポイントであることを踏まえたうえで、次の章では、有効な効果測定につながるアンケートを設計するコツについてご紹介します。

    2) アンケートを設計するコツ

    「アンケートは1度実施すればそれでいい」と思ってはいないでしょうか。
    実際「アンケートは研修直後に実施している」という企業も少なくありません。

    「やらないよりもやっただけマシ」と言えばそうかもしれませんが、たった1回のアンケートでその研修が効果的であったかどうか判断するのは難しいのではないでしょうか。

    研修前後のマインドの変化や行動変容を測定し評価するためには、少なくともアンケートは2回実施することが望ましいのです。

    ジャック・J・フィリップスの「研修の効果測定の5段階モデル」

    研修効果測定におけるアンケートの活用方法を説明する際によく用いられるのが、ジャック・J・フィリップスが提唱した「研修の効果測定の5段階モデルです。

    有益な研修効果測定をもたらすアンケート活用方法

    この評価レベルの中でアンケートを実施するタイミングは、レベル1(研修直後)とレベル3(3~6カ月後)の計2回です。

    なぜこのタイミングがベターなのでしょうか。
    レベル1のアンケートは、学習者が研修内容をどのように職場実践に応用していくか考えてもらう機会を作ることが目的です。レベル3のアンケートでは、学習者のマインド変化や行動変容を確認できるため、これらの変化と研修の因果関係を探ることができます。

    レベル1とレベル3のアンケート実施のタイミングについて、イメージしやすいよう図にまとめてみました。

    有益な研修効果測定をもたらすアンケート活用方法

    測定する目的の違いから、レベル1とレベル3で実施するアンケートの設問や設計のポイントは異なります。次の章から、レベル1のアンケートとレベル3のアンケートの設計と運用上のポイントについて解説します。

    3) レベル1のアンケートを設計する際のコツと留意点

    1回目のアンケートは、研修直後に実施します。
    このアンケートの目的は、学習者がどの程度インプットしたかを把握するとともに、職場で実践するための具体的なイメージを持ってもらうことです。

    そのため、1回目のアンケートでは

    • 研修実践前後でどのような捉え方の変化があったか
    • 職場で活用するイメージが湧いたかどうか
    • スキルを活用することでパフォーマンス向上ができると感じたかどうか

    などの点を考慮して設計することがポイントです。

    盛り込むべき質問は、一般的なアンケートで用いられる項目に加えて、

    1. 「目標に対する進展」
    2. 「活用度・改善」
    3. 「潜在的な障害」

    の3つが望ましいとされています。

    有益な研修効果測定をもたらすアンケート活用方法

    3つの項目を盛り込んだアンケートを研修直後に実施することで、学習者は研修目的の達成度や課題について、「どうだったろうか」ともう1度考えるようになります。
    これが、学習者から見た研修目的の達成度や課題を探り出すことにつながります。

    3つの項目に関する具体的な設問例を下図にまとめました。

    有益な研修効果測定をもたらすアンケート活用方法

    各項目について詳しく見てみましょう。

    ①目標に対する進展
    当初設定した目標(研修の目的)が、どの程度達成されたかを把握するための質問です。
    アンケートでは、研修前後で能力が向上した値とその根拠を学習者に説明してもらいます。

    目標に対する進展を学習者から数値化してもらうことで、定性的に把握しにくい達成度を、定量的に評価することが可能になります。

    ②職場活用イメージ・具体的行動の策定
    学習者が、研修で学んだことを活用できそうかどうか、どの程度イメージしているかどうかを把握します。

    ここでのアンケートの設問は、学んだことを活用できそうだと思う場面について、できるだけ多く回答してもらうことを意識して設計しましょう。

    活用場面のイメージ数と具体性は、どれだけ行動の可能性が上がるかに直結します。

    学習者が研修で学んだことを活用している場面を具体的に思い浮かべることができれば、研修は行動につながりやすいものであったと判断できます。逆に、思い浮かべられなければ、その活動は実際の行動につながることはないとみなしてよいでしょう。

    ③職場で実践する際の障害・改善点の把握
    学んだ内容を実践するうえで、ボトルネックになっていることや、上司や同僚の助けが必要な項目を洗い出す設問が、これに該当します。

    学習者が抱えている気がかりや悩みを把握することで、学習者の状況に対して理解を深められるとともに、問題解決をスムーズに進めることができるでしょう。

    レベル1で実施するアンケート全体を通しての留意点は、学習者に研修前にアンケートの内容を見せておくということです。

    研修前にアンケートの内容を知ることで、学習者は研修の目的を理解し、研修中「ここはアンケートで聞かれる大事な部分だ」と、意識を向けるようになります。

    学習者が「研修の成果」を意識して研修を受け、さらにアンケート項目をしっかりと埋めれば、その効果測定はより役に立つものとなるはずです。

    4) レベル3のアンケートを設計する際のコツと留意点

    2回目のアンケートは、職場実践をしてから3~6カ月後に実施します。
    なぜ期間をあけるかというと、学習者の行動に変化が起きたかどうか測定するためです。

    2回目のアンケートは学習者の行動変容の把握が目的になりますので、「より具体的なエピソードについて回答してもらう」ことを意識して設計することがポイントになるでしょう。

    また、留意点としてレベル1のアンケートで記入した内容を振り返りながら回答してもらうことが挙げられます。

    レベル3のアンケートに盛り込む項目は、以下の4つです。

    1. 「実践計画の達成度」
    2. 「成功・失敗のエピソード」
    3. 「研修を踏まえて作られた成果」
    4. 「その他」

    各項目の詳細と設問例を見てみましょう。

    有益な研修効果測定をもたらすアンケート活用方法

    ①実践計画の達成度
    学習者に研修直後に立てた実践計画の達成度を数値化してもらいます。
    また、具体的に何を行ったかいつても回答を促します。

    実践計画の達成度に関する情報を蓄積していくことで、定量的・定性的なデータとして研修の振り返りに活用することが可能です。

    ②成功・失敗のエピソード
    成功と失敗の両エピソードを学習者から聞き出すことで、今後の研修改善につなげていくことが期待できます。

    設問のポイントは

    • 研修のおかげで得られた成果
    • できるようなった成功エピソード
    • 行動計画を立てたものの実践できなかったこと
    • うまくいかなかったこと

    などを回答してもらえるような質問にするという点です。

    ③研修内容を踏まえて得られた成果
    このカテゴリーの設問は、研修を通じてどのような成果が得られたかを把握することを目的としています。
    一定の期間をおいて質問することで、以下のような内容の把握が期待されます。

    • 研修で学んだことがどの程度印象に残っているか
    • 研修内容を普段から意識して実践できているか
    • 研修の定着度合いはどのくらいか

    また、研修を受講したおかげで回避できた失敗やリスクなどの設問を入れることで、リスクマネジメントの観点からも評価できるでしょう。

    このように、アンケートは定量的・定性的な研修効果測定につなげるよう設計可能です。
    研修を導入する企業によって測定する指標は異なりますので、アンケートを設計する前に

    • 研修に期待していることは何か
    • どんな指標を測定するか

    を明確にし、総合的に学習設計をしていきましょう。

    5) まとめ:目的に適ったアンケートを設計して研修効果測定の精度を上げよう

    研修効果測定における、アンケートの活用方法についてご紹介しました。

    アンケートの実施が効果的とされるタイミングは、「研修の効果測定の5段階評価モデル」におけるレベル1とレベル3で、1つの研修に対して、2回アンケートを実施することがアンケートを成功させるポイントです。

    各アンケートを実施するタイミングと設計ポイントについて、一覧表にまとめました。

    レベル実施する
    タイミング
    設計のポイント
    レベル1研修直後職場での実施・活用する視点から整理するために以下の項目を盛り込む。
    ・目的に対する進展
    ・職場活用イメージ・具体的計画の策定
    ・職場で実践する際の障害・改善点の把握
    レベル33~6カ月後職場での実践度合いを「改善度」「発揮頻度」「具体事例」などの指標から測定するために以下の項目を盛り込む。
    ・実践計画の達成度
    ・成功・失敗のエピソード
    ・研修内容を踏まえて得られた成果

    本記事では各レベルで実施するアンケートに盛り込むべき項目について、細かくご紹介しましたが、すべての項目を入れる必要はありません。必要と思われる項目を組み合わせてアンケートを作成し研修直後と数カ月後の2回実施します。研修による学習者のマインドの変化と行動変容が、より見えるようになるでしょう。

    アンケートは手軽に有益な情報を収集できる、優秀な情報収集ツールです。測定の目的にそってアンケートを設計することが、研修効果測定の質を上げることにつながります。

    評価レベルに合わせたアンケートを実施し、よりよい研修の実施に役立てていきましょう。
    INDEX

    OTHER

    新着記事

    純粋に、貪欲に、新たな気づきと学びを求める人へ。