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2026.01.19

「役割認識」で解く、新人の主体性ジレンマ

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
「役割認識」で解く、新人の主体性ジレンマ
「最近の新入社員は、真面目で素直。でも、なんだかおとなしくて主体性に欠けるんだよね……」
人材開発の現場で、耳にタコができるほど聞かれる言葉です。しかし、私にはこの言葉が、育成側の「思考停止」の結果であるように思えてなりません。新人の「おとなしさ」を個人の性格や世代の特性に帰結させてしまうのは簡単です。しかし、そこからは何の解決策も生まれません。
私たちが真向き合うべきは、彼らの性格ではなく、彼らを動かしている「設計」の方です。
1. 「真面目でおとなしい」というレッテルへの反論

数年前まで、新入社員の傾向は「真面目、素直、おとなしい」と一括りにされてきました。実際、最新の調査でも「指示通りに実行できる」という点は高く評価されています。しかし、2024年、2025年と現場に立つ若手たちの本質は、かつてのそれとは全く異なります。
彼らはおとなしいのではありません。「効率的でないこと」と「意味のない失敗」を極端に嫌っているだけなのです。
デジタルネイティブとして、最短距離で正解にたどり着く術を幼少期から身につけている彼らににとって、目的の不明瞭な研修や、上司の顔色を伺うためだけの「主体性という名のパフォーマンス」は、コストパフォーマンス(タイパ)が最悪の行為に映ります。
「主体性がない」と言われるのは、彼らの性格のせいではありません。彼らが今この瞬間に、「ここで主体性を発揮することに、どんなメリットと意味があるのか」を見出せていないという、育成設計側の敗北を意味しているのです。

2. 主体性のジレンマ ── 「勝手」と「自発」の境界線

ここで、企業が抱える根深い矛盾 ── つまり「主体性のジレンマ」が浮き彫りになります。
育成現場では、しばしばダブルバインド(二重拘束)が起きています。「自分で考えて動け」と促しながら、実際に新人が自由に動くと「勝手なことをするな」「基本もできていないのに」とブレーキをかける。あるいは、「主体的な行動とはこういうことだ」とマニュアル化して教え込もうとする。しかし、教えられた通りに動くことは、もはや主体性ではなく「指示待ち」の延長に過ぎません。
社会人における主体性とは、実は「限られた制約(企業のルール、一般常識、成果への責任)」という「枠」の中での自発性です。この「不自由な中での自由」という高度な概念を、経験のない新人に「マインド(心構え)」だけで求めるのは、無理難題というものです。
彼らが求めているのは、放任でも強制でもなく、「どこまでが自分の守備範囲で、どこからが期待を超える領域なのか」という明確な座標軸なのです。

3. 解決の鍵は「役割認識」 ── 自分が「何者か」で行うことは決まる

このジレンマを突破する唯一の鍵が、「役割認識」の再定義です。
教育心理学の観点からも、人は「自分が何者であるか(役割)」という認識に反する行動は取らないことが分かっています。これを、研修デザインにおける「P-MARGE(成人学習理論)」の「自律性」や「目的志向性」と掛け合わせて考える必要があります。
多くの新入社員研修における最大の失敗は、初日に新人を「学習者(生徒)」と定義してしまうことです。
「この期間はしっかり学んでください」
「まずは基礎を習得しましょう」
この言葉が投げられた瞬間、彼らの脳は「インプット・モード」に切り替わります。学習者という役割における「主体性」とは、静かに話を聞き、綺麗にノートを取り、テストで良い点を取ることになります。これでは、現場が求める「自ら課題を見つけて動く」姿など、現れるはずがありません。人は、自分の役割を超えた行動は取らないからです。

4. 具体事例:役割の定義が行動を180度変える

役割は、年度や月単位といった長期的なものだけではありません。研修中の「1時間のセッション」単位で即座に与え、再定義することが可能です。具体的なシーンで、役割認識の差がどれほど行動に影響するかを見てみましょう。

シーン①:新入社員研修期間中のマインドセット
研修期間中を「将来のための準備期間」と捉えるか、「今、組織に影響を与える期間」と捉えるかの違いです。
・従来の役割:受講生(教えてもらう人)
→ 結果: 講師の解説を待つ。自分の理解度だけを気にする受動的な姿勢。
・再定義された役割:変容・波及者(自らが変わり、周囲を巻き込む人)
→ 結果: 自分の行動変容だけでなく、周囲の仲間の甘さにフィードバックを行い、全員のレベルを底上げしようと能動的に動く。「自分が変わることで、このチームをどうプロの集団に変えるか」という目標が加わります。

シーン②:会議(ディスカッション)への参加
新人が会議に臨む際、どのような役割認識を「今この瞬間」持たせるかで、アウトプットは劇的に変わります。
・役割:学習者(ただ参加して、内容を理解する)
→ 結果:指示を待つ。沈黙を守り、後で議事録を確認すれば良いと考え、発言を控える。
・役割:記録・貢献者(内容を構造化し、チームの共通理解を創る)
→ 結果:全員の発言をリアルタイムで整理し、論点のズレを指摘したり、議論のまとめを即座に共有して周囲の効率を高めようと集中する。
・役割:提案者(新しい視点を提供し、議論を活性化させる)
→ 結果:「新人のフレッシュな視点」という武器を自覚し、あえて既存の慣習への違和感を口にしたり、若い世代のインサイトを提案に盛り込もうとする。
このように、役割はシーン単位で「すぐに」与えられます。遠い未来の姿を夢見るのではなく、「今、この瞬間のあなたにはこの役割がある」と定義するだけで、新人は迷うことなく主体性のエンジンを回し始めるのです。

5. 主体性の境界線 ── 「相手の期待値を1%超える」

しかし、役割を強く意識させるだけでは、再び「勝手な行動」というリスクに直面します。そこで、主体性を発動させるための明確なルールを提示しなければなりません。
それが、「成果 = 相手の期待値を超えること」という定義です。
社会人における主体性の幅は、関わる相手の期待値によって決まります。自分一人で完結する自由(わがまま)ではなく、複数の人と働く中で、誰かが自分に期待している以上の価値を出すこと。
私は研修でよく、「1%の超え方」という話をします。
指示されたタスクを100%こなすのは、単なる「作業」です。そこに自らの意思で価値を乗せるのが「仕事」です。
・「資料を作っておいて」と言われ、100%作る。
・さらに、「相手が次に何をするか想像して、先回りして資料をホチキス留めしておく」
・さらに、「聞かれたことに対して、関連するデータを一つ添えて回答する」
こうした、相手の期待をわずかに超える「+1%の付加価値」を自らの意思で乗せること。これこそが、社会人が目指すべき主体性の正体です。この「1%の余地」こそが、新人が自由にクリエイティビティを発揮できるキャンバスなのです。

6. 研修デザインへの実装 ── イメージと問いのブレンド

役割を認識させ、主体性を引き出すためには、設計(Pedagogy)において「ブレンディッド・ラーニング」の思考が不可欠です。単に「考えろ」と言うのではなく、適切なインプットとアウトプットを組み合わせる必要があります。
まず、「良い主体性のイメージ(事例)」を大量にインプットします。
「気遣いとは、こういう具体的な行動を指すのだ」という動画や事例を、テクノロジーを活用して効率的に見せます。しかし、それだけでは「コピー」で終わります。
その後に、「なぜ、この行動は相手の期待を超えたと言えるのか?」という本質的な「問い」を投げ、ディスカッションさせます。「イメージ(定石)」の習得と、「なぜ(本質)」への問いをブレンドすることで、彼らは初めて「枠」を理解し、その中で自分なりの主体性を発揮できるようになります。

具体的には、以下のような「パフォーマンス・ラーニング」のサイクルを回します。
1)コンテンツ学習:プロとしての役割と、期待値の超え方の事例を動画等で事前学習。
2)プラクティス:実際の業務に近いシミュレーションで、+1%を実践する場を設ける。
3)フィードバック:その行動が「相手の期待をどう超えたか」を仲間や講師、AIから検証する。
4)定着の証明:現場に戻り、自らの役割に基づいた行動変容を上司に報告・実践する。

7. 研修を「イベント」から「ジャーニー」へ

明日から、彼らを「新人さん」や「受講生の皆さん」と呼ぶのをやめてみませんか。
彼らを「未来の組織を創るパートナー」として扱い、その役割に相応しい重い期待を投げかけること。主体性という魔法は、その「役割の重さ」を彼らが誇りとして受け入れた瞬間に、初めて発動するのです。
私たちはその旅を、最高の設計で支える存在でありたいと願っています。
さて、あなたは明日、彼らにどのような「期待」を言葉にして伝えますか?

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