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2025.10.27

学習効果を最大化する「研修ネーミング」の技術〜LXD(学習者体験デザイン)は名前から始まる〜

記事 / 写真 / 画像:LEARNING SHIFT INC.
学習効果を最大化する「研修ネーミング」の技術〜LXD(学習者体験デザイン)は名前から始まる〜
受講者が研修当日、会場の椅子に座るまで「今日、何をするのか」を具体的にイメージできていない。そんな状況が当たり前になっていませんか?
もしそうなら、あなたの会社は大きな機会損失をしているかもしれません。研修名は単なる「管理ラベル」ではなく、学習者の意欲に火をつける最初の「仕掛け」です。

本記事では、研修名にこだわることで学習効果を最大化する、プロフェッショナルな研修設計(LXD)の技術について解説します。
1. なぜ、その研修名は「残念」なのか? ~機会損失を生む3つの罠~

私たちは研修の「中身(コンテンツ)」を作ることに膨大なエネルギーを注ぎます。しかし、学習者との最初の接点(タッチポイント)である「研修名」については、驚くほど無頓着になりがちです。
「管理職研修」「3年目フォローアップ研修」……。これらは、管理する側にとっては整理しやすい便利なラベルですが、受講する側にとっては「業務命令」の通達でしかありません。
研修名は、単なる識別記号ではありません。それは、学習の旅(ラーニング・ジャーニー)への「招待状」であり、学習者の心を動かす最初のLXD(学習者体験デザイン)なのです。ここで「自分には関係ない」「つまらなそう」と思われたら、どんなに素晴らしい中身を用意しても、受講者の心の扉は閉ざされたままです。

では、具体的にどのような名前が学習意欲を削ぎ、機会損失を生んでしまうのでしょうか。私たちが無意識に陥りがちな「残念な研修名」には、3つの共通点があります。

(1) 曖昧な表現(中身が見えない)
「コミュニケーション研修」「ロジカルシンキング研修」といったタイトルです。一見、テーマは伝わりますが、受講者にとっては「なぜ今、自分がそれを受ける必要があるのか」という文脈(コンテキスト)が欠落しています。「また同じようなことをやるのか」という既視感を与え、学習への期待値を下げてしまいます。

(2)管理者視点(義務感が強い)
「コンプライアンス遵守研修」「管理職必修講座」などがこれに当たります。これは完全に「会社がやらせたいこと」の押し付けです。成人学習理論(アンドラゴジー)において、大人は「なぜそれを学ぶ必要があるのか(Why)」が納得できないと学習意欲が湧きません。この名前は、学ぶ前から「やらされ感」を醸成してしまっています。

(3)シリーズ化の罠(ワクワクしない)
「マネジメント研修Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」のように、体系化を優先したネーミングです。管理側はカリキュラムの構造を理解していますが、学習者からすれば「いつまで続くのか」という徒労感につながりかねません。そこには、次のステップに進むことへの「期待」や「高揚感」が欠けています。

これらに共通しているのは、「学習者不在」であるという点です。以下の図を見て、あなたの会社の研修名が当てはまっていないか、チェックしてみてください。

2. 学習者の心を動かす「ネーミングの4要素」

研修名は、学習が始まる前の体験、すなわち「予期的LX(Anticipatory LX)」をデザインする重要な装置です。
マーケティングの世界では、商品名やコピーライティング一つで売上が大きく変わります。研修も同じです。受講者という「顧客」に、学習という「商品」を選んでもらう(=主体的に参加してもらう)ためには、以下の4つの要素を戦略的に組み込む必要があります。

・Target(誰のための研修か?)
「全社員向け」という言葉は、誰の心にも響きません。「特定の悩みを持つあなたへ」と呼びかけることで、カクテルパーティー効果(自分に関連する情報だけが耳に入る現象)を狙います。
属性(中堅社員)ではなく、状況や悩み(時間がないプレイングマネージャー)にフォーカスすることで、「私のことだ」という当事者意識(自分ごと化)を引き出します。

・Benefit(何が得られるか?)
学習後のメリット、つまり「ご褒美」を提示します。ここで重要なのは、習得するスキルそのものではなく、そのスキルによって「どんな苦痛から解放されるか」というベネフィットを伝えることです。「会議が早く終わる」「クレーム対応が怖くなくなる」といった、学習者にとって切実な実利です。

・Goal(どう変われるか?)
研修受講後の「変容した姿(Being)」をイメージさせます。単なる能力向上ではなく、それによって周囲からどう評価されるか、どんな自分になれるかという「ありたい姿」を描かせます。これにより、学習への内発的動機づけを高めます。

・Hook(感情を動かすスパイス)
最後に、「なぜ今受けるべきか」という感情のフックをかけます。「3つの法則」「9割が知らない」といった数字の魔法や、「極意」「図解」といったパワーワードは、情報の洪水のなかで埋没しないための強力な注意喚起になります。

これら4つの要素を整理すると、以下のようになります。

3. 【実践】「感情」と「論理」をハックする2段構成テクニック

理論は理解できたとしても、実際に全てを短いタイトルに詰め込むのは至難の業です。そこで、私たちが推奨しているのが「メインタイトル + サブタイトル」の2段構成です。
まずは、以下の「ネーミングの型」をご覧ください。

このように、役割を分担させることで、インパクトと具体性を両立させます。

メインタイトル(Hook & Goal):右脳(感情)に訴える
キャッチーで短く、心に残るフレーズ。「おっ、面白そう!」「何だろう?」という直感的な興味を引きます。
例:「最強のチームビルディング」
サブタイトル(Benefit & Method):左脳(論理)を納得させる
具体的で、内容を補足する説明。「なるほど、こういう手法で解決するのか」「自分に役立ちそうだ」という安心感と納得感を与えます。
例:~心理的安全性を高め、離職率をゼロにする対話術~

この2段構えにより、受講者の脳内で「感情的な反応」と「論理的な理解」の両方が起こり、参加意欲が高まります。
では、実際に「残念な研修名」をリノベーションしてみましょう。

事例1:フォローアップ研修
Before:「入社3ヶ月目フォローアップ研修」
これでは「また集められるのか……。業務が忙しいのに……」というネガティブな反応しか引き出せません。
After:「現場の壁を突破する!入社3ヶ月目の課題解決ワークショップ」
「現場の壁」「突破」という言葉で、現在のモヤモヤに寄り添います。「ワークショップ」とすることで、座学ではなく能動的な場であることを示唆しています。
(心の声:今の悩みは「壁」なのか。それを解決できるなら行ってみようかな)

【事例2:メンタルヘルス研修
Before:「メンタルヘルス管理職研修」
「部下のメンタル管理なんて重荷だ。面倒だな……」という回避反応を招きます。「管理」という言葉には義務感がつきまといます。
After:「折れない心をつくる『レジリエンス』養成講座」
「折れない心」「レジリエンス」というポジティブなワードに変換します。まずは「自分自身の心を強くする方法」として提示することで、結果的に部下指導にも活かせるという構造にします。
(心の声:最近疲れているし、自分の心を強くする方法なら知りたい)

他にも、以下のような劇的な変換事例があります。中身のカリキュラムは同じでも、パッケージ(名前)が変わるだけで、受講者のスタンスが「受動(やらされる)」から「能動(自ら取りに行く)」へと変わるのがイメージできるはずです。

4. 名前を変えれば、文化が変わる
研修名の再設計は、コストをかけずにできる、最も費用対効果の高い「動機づけ施策」です。

しかし、これは単なる言葉遊びや、釣りタイトルの作成ではありません。「誰に、どんな価値を届け、どう変容してほしいか」を徹底的に考え抜かなければ、良い名前は生まれません。逆説的ですが、良い研修名がつかないということは、研修のコンセプト設計自体が曖昧である可能性が高いのです。

研修名は、研修デザイナーの「想い」と「戦略」が凝縮された結晶です。
まずは直近の研修を一つ選び、その名前を見直してみませんか?
その一行を変えることが、あなたの会社の「学びの文化」を変える第一歩になるはずです。
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